松崎有理

「超現実な彼女」冒頭部分試し読み(『代書屋ミクラ』収録)

作成日:2017/09/03 最終更新日:2017/09/15 かいたひと:松崎有理

お花アイコン

「名前を教えてください」
 刻文丁通の花屋を三度めにおとずれた夜、店員の彼女に思いきってそうきいてみた。
 彼女はぼくが買った一本きりの赤いばらを包む手をとめて、目をあげた。白い丸顔が微笑する。小さな唇が動く。
「レニエです」
 それはこの店の名前だ。

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『架空論文』特設ページ

『架空論文投稿計画』表紙

作成日:2017/07/25 最終更新日:2021/10/21 かいたひと:松崎有理

『鼻行類』か、それともソーカル事件か。
松崎有理が月刊電子文芸雑誌『アレ!』で2011~2012年に連載していた「架空論文」シリーズが、『架空論文投稿計画 あらゆる意味ででっちあげられた数章』(光文社)として書籍化されました。
このページには試し読みもたっぷりございます。もっと架空論文を読みたいひと向けに、記事末尾に無料公開作品へのリンクもつけました。

【もくじ】
「架空論文」サンプル公開いたします。(PDFあり)(2017/07/25更新)
第一章をまるまる試し読み(2017/09/29更新)
新刊プレゼント企画はじめました。(2017/10/05更新)
書誌情報・カバー・帯・もくじ公開します。(2017/10/07更新)
どんな本なのかてっとりばやく知りたいかたへ(2017/10/12更新)
現役研究者からご感想をいただきました(2017/11/21更新)
電子版発売しました・実機レビュー(2017/11/27更新)
書評のご紹介(2017/11/27更新)
正誤表(2017/12/15更新)

「架空論文」サンプル公開いたします。

こんな架空論文がほかに10本も入っています。でも、論文集ではなくて小説なんですよ。

島弧西部古都市において特異的にみられる奇習“繰り返し「ぶぶ漬けいかがどす」ゲーム”は戦略的行動か? ——解析およびその意義の検証

ユーリー小松崎(比較民族文化研究所)、松崎有理(情報数理生命科学研究所)
(Received 7 Sep 2011, Final acceptance 12 Sep 2011)

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リアル女性数学者・小谷元子先生――理系女子応援企画・その6

作成日:2011/3/5 最終更新日:2017/11/07 かいたひと:松崎有理

*本稿は取材先の認可を経て執筆、掲載しています。

小谷元子先生

小谷元子先生近影。

ごあんない:

東北大学大学院理学研究科 数学専攻


 小谷 元子 Mitoko Kotani 先生 略歴:

 1983年 東京大学理学部数学科卒業
 1990年 理学博士
 1999年 東北大学大学院理学研究科 数学専攻 助教授
 2004年 東北大学大学院理学研究科 数学専攻 教授

 2005年 「離散幾何解析学による結晶格子の研究」により第25回猿橋賞を受賞

 海外研究暦:
 1993年9月-1994年 8月 マックスプランク研究所(ドイツ)
 2001年 4月-11月 高等科学研究所(IHES)(フランス)
 2006年2月-3月 ニュートン研究所(イギリス)


東北大学サイエンス・エンジェル(以下SA)取材からはじまった「理系女子応援企画」も、すでになんと6回め。
このたび、SA産みの親のひとりである小谷元子先生に、お話をうかがう機会を得ることができた。
理系の女性がより活躍するためにはどうすればよいのか、
そして松崎が拙作「ぼくの手のなかでしずかに」(『あがり』収録)で呈した疑問、
なぜ、数学科には女性がすくないか?」に、答えはあるのか。
以下、インタビュー内容をおとどけする。

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理転の宇宙工学者・岸本直子先生――理系女子応援企画・その5

作成日:2011/3/4 最終更新日:2017/11/08 かいたひと:松崎有理

*本稿は取材先の認可を経て執筆、掲載しています。

岸本直子先生学会発表中

学会講演中の岸本先生。テーマは「宇宙プランクトン」。なんじゃそりゃ、と思ったかたは、以下の記事をおよみください。

ごあんない:

宇宙プランクトンプロジェクト


 岸本直子 Naoko Kishimoto 先生 略歴:

 1990年 京都大学文学部史学科考古学専攻卒業
 1997年 京都大学工学部航空工学科卒業
 1999年 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了
 2004年 東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士後期課程単位修得満期退学
 2004年 博士(工学)取得
 日本学術振興会特別研究員、(独)宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部共同研究員を経て、
 2006年より(独)宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究本部招聘開発員
 現在 科学技術振興機構 さきがけ研究者 (京都大学大学院 工学研究科)


「いきものだいすき、な子でしたよ」
どんなお子さんでしたか、という問いに、岸本先生は少女みたいに目を輝かせながらこう答えた。

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『代書屋ミクラ すごろく巡礼』冒頭部分試し読み

作成日:2017/09/03 最終更新日:2017/09/06 かいたひと:松崎有理

「これは結婚できない呪いの秘薬」
 その男は緑色の瓶の中身をぼくの頬に塗り終え、満足げな笑みをうかべた。三十歳くらいのさも賢そうな男前で、ふだんはめったに笑わない。
「おまえはもう一生結婚することができない」
 ぼくの目をのぞきこむ。また笑う。美形なだけにいっそう怖い。
 負けるもんか。負けないぞ。なにが呪いだ、呪いの正体とは思いこみだ。信じさえしなければなんの効力もない。
 大声でそう叫んでやりたかった。だが口は開かない。そもそも全身にわたって、まったく、指先さえも動かすことができなかった。
 あああああああああ。かわりに心のなかでせいいっぱい叫んだ。あああああああああ。動け、このからだ。声を出すんだ。声を。あああああああああ。
「あああああああああ」
 勢いよく布団を払いのけて起きあがった。短距離を全力疾走した直後のように肩が上下していた。心臓が跳ねている。寝間着がいやな汗で濡れている。
 あの夢か。ひさしぶりだな。
 見慣れた古い貸間の古い柱と古い掛け時計をぼんやりながめながら、夢の内容を反芻した。ふだんは忘れ去っているけれど、春がくるころかならず夢のかたちで記憶がよみがえる。三年前のこの季節、代書屋としての初仕事。依頼人は意地悪な研究者。ぼくはまだ依頼人との適切な距離のとりかたを知らず、反発したあげく彼の研究主題でもあった呪いをかけられるはめになった。しかも。
 結婚できない呪いだ。

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大先輩・郷 通子先生にインタビュー――理系女子応援企画・その4

作成日:2011/02/04 最終更新日:2017/11/07 かいたひと:松崎有理

*本稿は取材先の認可を得て執筆、掲載しています。

郷通子先生

郷 通子先生近影。情報・システム研究機構の理事室にて。とにかく気さくで話しやすいひとだ。松崎の緊張は二秒でどこかに消えた

「このひとは、”問うひと”だ」
というのが、今回のインタビューをつうじて松崎が郷先生に抱いた印象だ。

インタビューの日程がきまってから、郷先生の執筆したもので予習し、
実際にお会いしてお話をきき、
帰ってからまた復習して、
ますます、このひとは徹頭徹尾、疑問をもち問いつづけるひとなのだ、という思いを強くした。
しかもこのインタビュー、ものすごく楽しかった。二時間半があっというまだった。
以下で、当日の雰囲気をいくらかなりともお伝えできれば。


 郷 通子 Mitiko Go 先生 (理学博士、生物物理学) 略歴:
 1939年うまれ。
 1962年 お茶の水女子大学理学部物理学科卒業
 1967年 名古屋大学大学院理学研究科博士課程物理学専攻修了
 コーネル大学博士研究員、日本学術振興会奨励研究員、九州大学理学部非常勤講師を経て、
 1973年 九州大学理学部生物学科助手
 1989年 名古屋大学理学部教授
 1996年 名古屋大学大学院理学研究科教授、東京大学 分子細胞生物学研究所客員教授
 2003年 長浜バイオ大学バイオサイエンス学部学部長
 2005年 お茶の水女子大学学長、長浜バイオ大学特別客員教授
 現在 情報・システム研究機構 理事


「”なぜ?”と、きく子供だったんです」
幼少時代について質問した松崎にたいし、郷先生はこう答えた。

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名古屋大学理系女子コミュニティ あかりんご隊――理系女子応援企画・その3

作成日:2010/10/22 最終更新日:2017/11/07 かいたひと:松崎有理

*本稿は取材先の認可を得て執筆、掲載しています。

あかりんご隊1

「みんな、理科がだいすき! 理科の魅力をつたえていきたいと思っています」(名古屋大学理系女子コミュニティ あかりんご隊 リーフレットより 一部改変引用)

 

もくじ:
1、名古屋大学あかりんご隊のイベントを取材してみた
2、あかりんご隊メンバーへのインタビュー

ごあんない:
名古屋大学理系女子コミュニティ あかりんご隊
名古屋大学 男女共同参画室

1、名古屋大学あかりんご隊のイベントを取材してみた

「名古屋大学にも、女性研究者支援モデル育成事業としてあかりんご隊がありますよ」
と、東北大学サイエンス・エンジェルの取材時にうかがった。

あかりんご隊の存在じたいは、知っていた。
残念なことに、ウェブ上の情報があまりにすくなすぎる。せっかくおもしろそうなことをしているのに、もっと宣伝しなくちゃもったいない、というのが正直な感想。
しかし幸いなことに、名古屋市は、現在の松崎の居住地だ(註・執筆当時)。

これは、地の利をいかして取材してこなければなるまい。

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