松崎有理

『学校教育におけるジェンダー・バイアスに関する研究』からわかったこと――理系女子応援企画・その2

作成日:2010/10/10 最終更新日:2017/11/07 かいたひと:松崎有理

東北大学サイエンス・エンジェル取材のなかで、
松崎が衝撃をうけた、いちまいのPPT:

パワーポイント説明

衝撃のパワーポイント。そんなあ。

……とても気になった。
理系進学って、保護者や教師にそんなにうけが悪いんだろうか?
しらべてみたところ、理系白書 この国を静かに支える人たち (講談社、2003年)でも、このデータが引用されている。
ここは、

「まずは一次資料にあたれ。話はそれからだ」 (スティーブン・ジェイ・グールド

の精神にのっとり、原典をみなければならないだろう。

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東北大学サイエンス・エンジェル――理系女子応援企画・その1

作成日:2010/09/23 最終更新日:2017/11/07 かいたひと:松崎有理

*本稿は取材先の認可を得て執筆、掲載しています。

サイエンスエンジェル・ロゴ

「おもしろそう! たのしそう! かっこいい! ――好奇心のタネ、とどけます」
(サイエンス・エンジェル リーフレットより 一部改変引用)

この記事のもくじ:
1、東北大学女性研究者育成支援推進室インタビュー
2、東北大学サイエンス・エンジェルのみなさんにインタビュー

ごあんない:
東北大学サイエンス・エンジェル 公式ホームページ
東北大学 女性研究者育成支援推進室

 

1、東北大学女性研究者育成支援推進室インタビュー

きっかけは、ぐうぜんだった。
松崎がウェブをみていて、母校のHPでたまたま発見した「東北大学サイエンス・エンジェル」 *)。
しらべてみると、自然科学系の女子大学院生があつまって、高校生や市民の前で実験イベントをやっているらしい。
……なんて楽しそう
在学中にこんな活動があったら、ぜったいに参加していた。なにより同性のともだちがほしかったし。切実に。

東北大学は、国内初の女子学生受け入れを行った大学なんだけど
それでも、理系の女の子は絶対数がすくなかった。昔も、いまも。

これは、応援せねばなるまい。

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コーヒーの木を種(つまり豆)から育ててみた

作成日:2010/06/30 最終更新日:2017/11/21 かいたひと:松崎有理

コーヒーは作家の友。まいにち飲んでます。消費量がはんぱじゃないのでもっぱら通販でまとめ買い。

それは、いつも通販で買っているコーヒー豆(もちろん焙煎ずみ)に同梱されていた、ひとつの袋からはじまった。

コーヒー屋さんからの手紙

かんじんのコーヒーの種を撮り忘れた。4粒はいってました。


同封のメモにはいろいろ書いてあったけど、
脚色しつつ要約するとこんな感じ:
「コーヒーの種をお送りします。
日本では気温が低いので、発芽するかどうかよくわかりません。
でも、運だめしと思って植えてみてね。Good Luck ! 店主より」

というわけで、コーヒーの種を撒いてみることにした。以下、その生育日記。

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ペンネームで郵便物を受けとる方法

作成日:2011/01/27 最終更新日:2017/11/06 かいたひと:松崎有理

作家デビューして初の正月をむかえた。
すると関係者や読者の方から「松崎有理さま宛で年賀状を出したんだけどもどってきちゃいました」というメールがあいついで舞いこむ事件発生。

いちおう、郵便受けにペンネームは出しておいたし、宅急便は問題なく届くのでこれまで気づかなかった(出版社からのゲラは宅急便でくるのです)。

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『5まで数える』特設サイト連動企画〜ボツネタ救済します

『5まで数える』表紙

作成日:2017/06/08 最終更新日:2020/02/26 かいたひと:松崎有理

#このページは筑摩書房『5まで数える』特設サイトと連動しています。

世に出た結果の影には、その何倍ものボツ作品がある。
もちろん、埋もれさせるには少々もったいないものも存在する。
というわけで、ボツネタ救済企画。
今回のテーマは「初の特設サイトでいっぱいボツになった」です。

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『5まで数える』表題作冒頭部分試し読み

作成日:2017/09/02 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。 寺田寅彦「小爆発二件」

***

 少年が敵の姿をはっきり認識したのは五年生になったさいしょの日であった。
 九月。まだまだ秋とは名ばかりの、強い日差しと亜熱帯的なスコールに悩まされる時期である。少年のクラスの担任となったのは新顔で、若く、きびきびした動きの小柄な女性だった。彼女は教壇に立ち、児童たちの前でファンと名乗った。きれいな発音の英語だった。四年のとき担任だったイギリス人男性教師よりもきれいなくらいだ。
「先生、かわいいっ」
「どのへんに住んでるんですか。旧市街、それとも新地区」
「スリーサイズは。好きなタイプは」
 ませた男子たちがつぎつぎにませた質問を発する。女子たちは彼らを軽蔑の目でながめながらも、やはり若い新任教師にたいし興味津々だ。クラスの六割が中国系で三割がヨーロッパ系、残り一割がその他の民族集団で、少年はみっつめのカテゴリに属している。この街の公用語は歴史的経緯から南欧語だが事実上の共通語は中国語であり、観光都市という性格から学校での授業はすべて英語で行われていた。

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「砂漠」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/02 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  人間のやることは凶暴すぎる。  宮崎駿「空のいけにえ」(サン=テグジュペリ『人間の土地』、新潮文庫より)

***

 どこにも怪我はないようだった。
 不幸中のさいわい、と定型句をつぶやいて、少年は空をみあげた。嫌味なくらい徹底的に晴れわたっていて、雲の存在など忘れてしまったかのようである。太陽はほぼ空の頂点に達しており、残酷なほど強烈に地表をあぶりつづけている。火にかけた鍋の底にいるみたいだった。いまは十二月、この大陸は真夏だ。
 はたしてこれは幸運なのか不運なのか。

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「バスターズ・ライジング」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/01 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

 一二五ダラーといえば、舞台鑑賞の料金としてはかなりの高額である。それでも超能力者ロクスタ師の秋公演チケットはまたも即日完売となった。
 ロクスタ師の宣伝方法はつねにシンプルかつ効果的だ。今回のコピーは「あなたは奇跡を目撃する」。基本、事前情報はこれだけ。それでもひとは争ってチケットを求めるのである。二週間の公演を通して座席を押さえる熱心なファン、ないし信者も多かった。
 会場は劇場街最大規模を誇るニューシティシアター。入口には物販があって、ここへも客の金がつぎこまれる。ロクスタ師の著書、師監修の超能力自己開発キットや悪い波動を防ぐという護符類。ネットワークの公式サイトから通信販売するばあいの数倍の価格なのに、山積みであった商品はすでに売り切れ寸前だ。公演時に入手すればより強い奇跡の力に触れられると信じられているためである。
 前宣伝どおり、この夜かれらは奇跡を目撃した。公演初日の開演を告げるブザーとともにざわめきが止んで、客席側の照明が落ち、無人のステージに二千対の視線が集中する。ステージは通常の仕様で、舞台奥には大黒幕、袖には三重の黒い袖幕がついていた。数十秒も無音の時間が流れたあと、ふいに音楽。舞台両袖からスモーク。するとステージ中央に、トレードマークの白いローブをまとったロクスタ師の姿がとつじょ出現した。

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「たとえわれ命死ぬとも」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/01 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  死亡や障害が予見されるようないかなる(人体)実験も行われてはならない。例外があるとすれば、実験する医師自身が被験者となるものであろう。 ニュルンベルク綱領第五条、著者訳

***

 法学部ではなく医学部へ行きたい、とうちあけたときの両親の顔を大良は生涯忘れることはなかった。
 十八歳の夏のことだ。居間の大きな窓は開け放たれ、天井では輸入もののしゃれた扇風機がゆっくり回転して微風をつくりだしていた。両親はまず驚き、ついでやはり、という表情になり、それから泣いた。だが息子を止めはしなかった。止めても無駄とわかっていたからだ。両親としては、生き残った子供には安心安全な道を歩んでほしいと願っていたのだが。たとえば父親のような弁護士になるとか。
 嘆く両親を置き去りにして大良は二階の自室にあがり、受験勉強のつづきにかかった。彼にはもうひとつ忘れられない顔があった。だから彼は医学部をめざす。医師に、より正確には実験医になるためである。

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