作成日:2010/10/22 最終更新日:2017/11/07 かいたひと:松崎有理
*本稿は取材先の認可を得て執筆、掲載しています。
もくじ:
1、名古屋大学あかりんご隊のイベントを取材してみた
2、あかりんご隊メンバーへのインタビュー
ごあんない:
名古屋大学理系女子コミュニティ あかりんご隊
名古屋大学 男女共同参画室
1、名古屋大学あかりんご隊のイベントを取材してみた
「名古屋大学にも、女性研究者支援モデル育成事業としてあかりんご隊がありますよ」
と、東北大学サイエンス・エンジェルの取材時にうかがった。
あかりんご隊の存在じたいは、知っていた。
残念なことに、ウェブ上の情報があまりにすくなすぎる。せっかくおもしろそうなことをしているのに、もっと宣伝しなくちゃもったいない、というのが正直な感想。
しかし幸いなことに、名古屋市は、現在の松崎の居住地だ(註・執筆当時)。
これは、地の利をいかして取材してこなければなるまい。
おりよく、10月16日は名古屋大学のホームカミングデイ、というイベントのある日で、
このとき、あかりんご隊による公開科学実験が行われるようだ。
事前に、名古屋大学 男女共同参画室に取材のお願いをすると、
なんともうれしいことに、快諾の返信が。
というわけで、当日。いざ、会場である名古屋大学野依記念学術交流館へ。
……盛況である。
会場前方が、あかりんご隊メンバーによる科学実験ステージ(写真左)、
会場中央から後方にかけて、丸テーブルが五つほどあって、参加者があかりんご隊メンバーといっしよに実験できる(写真右)ようになっている。
ちなみに白衣姿の人たちはあかりんご隊メンバー、および「白衣をきて科学者きぶんになってみよう!」企画(松崎がかってに命名)に参加している子供さんたちだ。
さて、各丸テーブルでは、どんな実験ができるのだろう。
松崎はさっそく突撃し、あかりんご隊メンバーさんに説明をうけつつ(子供にまじって)やってみた:
「この実験は、題して人工イクラをつくってみようです」
――じ、人工イクラ?
「このピンク色の液体がアルギン酸ナトリウムで、昆布などに含まれる多糖類です。あのぬるぬるねばねばのもとになっています。
マグネシウムイオンやカルシウムイオンと反応してゲル化する、というおもしろい性質があるんですよ。
だから……」
と、あかりんごメンバーさん、ピンクの液体(=アルギン酸ナトリウム)を水、および塩化カルシウム溶液のはいったカップに滴下する。
「水のばあいはすぐに拡散してしまうんですけれど、
塩化カルシウム溶液のなかでは、アルギン酸ナトリウムのまわりに膜ができて、しっかりした球状になるんです。
それがイクラそっくりだから、人工イクラ」
――たべられるの?
「たべても体に害はないけれど、できればたべないでくださいね」
矢印のように、ラップにはさんで押してみたけれどつぶれない。実物ではとても考えられない、しっかりしたイクラができた。
楽しい。
そして、あかりんご隊メンバーによるステージでの公開実験。こちらもすごいひとだかりが。
やっていたのは「どうして? 出たり入ったりする風船のなぞ」(松崎がかってに命名):
実験のあいまに、あかりんご隊メンバーさんたちにいろいろきいてみた:
――こういう実験の内容って、どんなふうに考えているんですか?
「もちネタ、じゃないですけど、いくつかレパートリーがあるんですよ。
子供さんたちにお見せしたり、いっしょにやったりするので
まんいち口にいれてしまっても危険のない材料を使うようにしなければいけません。
そうなると、おのずと種類がかぎられてきて。
今日やった『イクラ』と『水風船』は、すでに何度かやって好評だったものです」
――というと、公開実験っておもに子供さんたちを相手に?
「はい。名古屋大学内にある未就学児のための保育園と、小学生対象の学童保育所で。
そのほかにも、名古屋市科学館で行われる市民対象イベント『科学の祭典』でも行っていますよ」
――そうそう。あかりんご隊、っていう名前の由来を、おしえてもらえます?
「実は、この団体を発足させた理系女子学生ふたりの名前をそれぞれとってくっつけて、なんです」
――ええっ? あかりんご隊をつくったのって、学生さんなんですか?
「はい。発足は2007年なんですが、
学内少数派である理系女子学生があつまれるコミュニティをつくろう、というのが当初の目的でした。
二年目から時活動が拡張して、保育園・学童保育所やイベントへの出張、
さらには名古屋大学のオープンキャンパスでも、女子高生のための進学相談として出展するようになったんです」
あかりんご隊をバックアップする、名古屋大学男女共同参画室 助教の榊原千鶴先生にも、お話をうかがった:
――メンバーの募集は、どのようにされてます?
「基本は口コミです。また、リーフレットやホームページでも参加をよびかけています。
理系の女子学生や女性教員があつまれる、こんな楽しいコミュニティがありますよ、って。
それに、実をいいますと、今年になってからイベントなどの活動回数がふえてきて、人手がたりないんです」
――いまのメンバー数は?
「29名です」
――メンバーになることのメリットってなんですか?
「やはり、少数派の理系女子学生・教員どうしのネットワークができることですね。
自然科学系の研究室では、女性は自分ひとり、なんて状況はざらですから
こういう場は、必要とされていると思います。
それと実利的なことをいえば、
就職活動のとき、在学中にやっていたこととしてあかりんご隊について話すと
とても受けがいいようです」
――今後は、どんな活動を?
「直近のイベントとしては、11月13日(土)に名古屋大学で『女子中高生理系進学推進セミナー』が開かれますので
そちらに参加します。
理系に進学するかどうか悩んでいる中高生のみなさん、
ぜひ、あかりんご隊に会いにきてください。
みぢかなロールモデルがみつかるかもしれませんよ」
*******
あかりんご隊メンバーによる公開実験、
事前に思い描いていたより、何倍もおもしろかった。
僭越ながら松崎には多少の知識があるので、
これからなにが起こって、どういう原理なのかはおおむねわかるのだけれども
それでも、実際に目の前でくりひろげられる実験にはどきどきした。
子供たちにとっては、きっと
「なにがおこるの?(謎)」→たねあかし→「そうだったんだ!(謎の解明)」
といったかんじで、映画をみているみたいに楽しめたと思う。いや、双方向のコミュニケーションがあるから、映画以上だ。
理系女子学生たちは忙しい。だから、できることは限られているかもしれないけれど
きっと、子供たちへの影響は大きい。
だいすきな理科の魅力を次世代に伝えるために、
ぜひぜひ、がんばってほしい。学業にむりのないように。
(2010年10月16日 名古屋大学 野依記念学術交流館にて)
2、あかりんご隊メンバーへのインタビュー
例によって、あかりんご隊のみなさんにもいくつか質問をしてみた。
名古屋大学男女共同参画室 助教の榊原千鶴先生にお願いし、
連絡用メーリングリストをつかって、以下のアンケートに答えていただいた。
質問項目は以下のとおり:
(1)あなたの専攻と、それを選んだ理由をおしえてください。
(2)理系進学をきめたきっかけ、理由はなんですか。
(3)あかりんご隊に入ったのはなぜですか。
(4)理系進学を考えている後進のひとたちに向けて、おすすめの本をおしえてください。できれば理由も。
よせられた回答を、以下でご紹介:
隊員Aさん
(1)生命農学研究科。学部のときに選んだ研究室にそのまま進学したからです。
(2)文系に対する具体的なイメージがわかなかったから。それと、理系に進んで医者になるのがかっこいいと思ったから。現在はまったく関係のない分野にいますけど。
(3)指導教官があかりんご隊の担当者だったから。
(4)『理系のための研究生活ガイド』(坪田一男、講談社ブルーバックス)。
研究者として成功するにはどうすべきかわかりやすく書かれています。
隊員Bさん
(1)理学研究科 生命理学専攻。高校で生物学をまなび、遺伝子やタンパク質などよりちいさなスケールから生き物の成り立ちについて知りたいと思ったから。
(2)理科がおもしろかったから。単純にそれだけ。
(3)他学部の理系女子学生の同級生や先輩と話してみたかったから。理系女子学生の交流の場をつくったり、子供たちと実験をするのががおもしろそうだったから。
(4)『空想科学読本』(柳田理科雄、メディアファクトリー)。
漫画やアニメ、特撮などに登場するヒーローや人物の設定が現実に起こりうるのか科学的に検証した本。
学校の勉強のように堅苦しくなく、すなおに「科学って、おもしろい」と思ってもらえるでしょう。
隊員Cさん
(1)工学研究科 化学・生物工学専攻。化学を専攻したのは、フラスコやビーカーを使って行う実験にあこがれていたから。工学を選択したのは、ものづくりに興味があったからです。
(2)理系科目が得意で、好きでもあったから。
(3)理系女子の先輩が少なく、将来について不安でした。そんなとき、理系女子学生エンカレッジ交流会に参加して、先輩と話をすることでとても心強く思えました。自分自身も後輩のために、このような会を企画する側になりたいと感じて。
(4)とくにありません。
隊員Dさん
(1)工学研究科 生物機能工学専攻。おおざっぱにいうと、有機合成化学をしています。フラスコや試験管をつかって実験した中学や高校のころの楽しさが忘れられなくて選びました。試薬の組み合わせによって無限の可能性がひろがる、魅力ある分野です。
(2)じつは自分、文系なんだと思ってました。検察官になりたかった時期もあります。でも、高校の文理選択で母親と相談した際に 「あんたは理系でしょ」 といわれ妙に納得。理系に進学しました。いま思えば、理詰めが好きだし、不確定なものってもやもやするので、やっぱり理系なんだと思います。それと、理科や化学の実験が好き、化学式をながめるのが好き、など挙げればいろいろあります。
(3)研究室の先輩が入っていたので一緒にくっついていきました。研究室でも女子学生が自分しかいない年もありましたので、いろいろ助け合えるあかりんごチームには感謝してます。
(4)ええと……科学者自伝とか成功談とか、そういったたぐいの本はあまり読まないので、すぐにはでてきません。ごめんなさい。
有機化学に少しでも興味のある人には、『有機化学美術館へようこそ』(佐藤健太郎、技術評論社)を。HPもあります。
そのほか、最近は理系に関する漫画や小説(理系ミステリィってやつです)も出ているので、わたしと同様エッセイは読まない、という方には取っつきやすくておすすめですよ。
隊員Eさん
(1)工学研究科 物理工学科材料コース。もともと理科の中でいちばん物理が好きだったのと、コンピュータシミュレーションよりも自分の手を動かして実験を行うことが好きだったからです。
(2)もっともっと知らないこと、わからないことを自分が知りたい、発見したいと思ったから。
(3)いまの自分に何ができるか・何がしたいのかを考えたときに、何か役に立てることがあるのではないかと思い、入りました。また、理系、とくに物理系は女子が少ないので、友達もほしいな、と。
(4)理系でも本を読む習慣をつけた方がいいと思います。
なので、とくにこれを! と、限定したおすすめはないのですが……
わたしは小説からエッセイ、専門書などいろんなジャンルを読みます。世界観を狭めないため、幅広く読むのがいいでしょう。
隊員Fさん
(1)理学研究科 生命理学専攻。生物系です。
(2)中学、高校を通していちばん好きな科目が生物だったから。将来の仕事などを深く考えて選んだわけではありません。
(3)他分野の人と交流を持つため。
(4)『すべてのいのちが愛おしい~生命科学者から孫への手紙~』(柳澤桂子、集英社)。
孫への手紙、というコンセプトなので生物学未履修者でも読みやすい。かつ、幅広い身近な話題を取りあげているのでイメージがわきやすい。
隊員Gさん
(1)工学研究科 化学生物工学科応用化学コース。将来、食品や化粧品を開発する仕事に就きたいと考えていたので、分野として近いと感じた化学系の専攻を選びました。
(2)英語が苦手で、数学が得意だったから。
(3)研究室の先輩に紹介されて。
(4)『インシテミル』(米澤穂信、文藝春秋)。
最近読んだ本の中でいちばんおもしろかった。
隊員Hさん
(1)工学研究科 化学生物工学科。化学の実験が好きだったので。
(2)化学好きで、国語が苦手だったから。また、理系女子は性格がさばさばしていて、気が合いそうだったから。
(3)他の学部、学科の理系の先輩、同期、後輩がふえ、楽しそうと思ったからです。
(4)本はあんまり読まないので、ありません。でも、『理系白書』(毎日新聞社科学環境部編、講談社)はもってますよ。読んだことないですが。
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