作成日:2019/01/18 最終更新日:2019/02/27 かいたひと:松崎有理
マカオ。拙作「5まで数える」の舞台のモデルとなった街です。じつは松崎、このお話をマカオに行かないまま書いてしまったので、いつか訪問したいと強く思っていたのでした。
そしてここは1999年までポルトガル領。つい3ヶ月前にポルトガルへ行ってきた、そしてポルトガルの魅力にすっかり参ってしまった松崎としては、マカオにいけばポルトガル旅行の代わりになるかもしれないと考えてしまったのですよ。なにせ:
- ポルトガルへ 直行便なし、片道およそ18時間
- マカオへ 直行便で片道およそ4時間
と圧倒的に近い。体にもお財布にも負担が少ないことでしょう。
というわけで、今回のマカオへの旅は:
- マカオはどれだけポルトガルなのか
- 「5まで数える」落ち穂拾い
- カジノは全力で無視
がおもなポイントです。では目次をどうぞ。
【もくじ】
1,街のようす(建物など)
2,料理
3,コーヒーとスイーツ
4,スーパーマーケット
5,ポルトガル語は通じるのか
6,結論
7,マカオ旅行お役立ち情報(ググっても出てこないことを中心に)
1,街のようす(建物など)
空港からのタクシー(*1)を降りてホテル前の舗道に立ったとたん、「あっリスボンそっくり」と思いました。だって敷石が。
これはカルサーダス Calcada と呼ばれるものです。本国のようすはこちらからどうぞ。
しかし見上げれば。
空にはまるでラスボスのような圧倒的存在感でグランド・リスボアがそびえていました。本国ではありえない下品さ(*2)です。
*1 タクシー代は73MOPでした。日本に比べるとずいぶん安いし、マカオ国際空港にはいわゆる「空港シャトルバス」的なものがないのでおすすめです。
*2 でもしばらくたつと親しみがわいてくるのが不思議なところ。
教科書や文具の入った帆布鞄を肩にかけ、石畳とガス灯とパステルカラーの家並みで彩られた南欧ふうの街路を走る。さきほど通り雨が降ったのか、敷石や建物の漆喰が水蒸気のにおいを放っている。レトロな洋館が囲む議事堂前広場を抜けると、聖ポール教会のバロック調のファサードがあらわれる。背が高く重い扉を押し開ければ、石造りの身廊につややかな木製ベンチが並び、蝋燭のゆらめく世界が出現する。外の残暑が嘘のようで、脛を出したハーフパンツでは涼しく感じるくらいだ。
(「5まで数える」)
ポルトガルふう建築はあちこちに残っていて、だいじに保存されています。しかしマカオぜんたいに占める割合はわずか。石畳の通りを一歩入れば、下の写真のようにカオスなアパート街です。
とはいえ街はおおむねきれいでした。写真のような菅笠(?)をかぶったひとが箒とちりとりでせっせと掃除しています。観光客が投げ捨てたたばこ(*3)の吸い殻もあっというまに消失。ペットの犬はいましたが、ヨーロッパでよくみかける犬の糞(*4)もありませんでした。
*3 マカオでは屋内での喫煙が禁止されています。罰金は1500MOP。
*4 犬の糞があるかどうかは国によってちがっていて、フランスやスペインでは多く、ポルトガルやドイツにはほとんどないという印象。
アキラの両親は寄ると触ると自分たちの祖国をほめるのだった。
「なにより、トイレがきれい。あれは奇跡だ」
(「5まで数える」)
そしてなによりだいじなトイレ情報。
清潔さは、まちまち。ホテルや飲食店でも油断できません。壊滅的にきたないばあいがあります。観光地にはあちこちに公衆トイレがありますが、恐ろしくて入れませんでした。
たまにトイレットペーパーが切れていることもあります。
よってティッシュとウェットティッシュは必携アイテムです。
例外的にきれいだったところをご紹介。
2,料理
ポルトガル料理店とうたっているところも、現実にはマカオ料理であるばあいが多いと感じました。
マカオでは、ポルトガル料理は高級にランクされます。だいたい本国の倍くらいのお値段。
それと本国も量が多いのですが、マカオはそれにも増して多い。しかも本国のように meia dose(=半量)というオーダーができないので、小食のひとはつらいかもしれません。そんなときは日本人の美徳「モッタイナイ」はかなぐり捨てましょう。
マカオのレストランはポルトガルにも増して大盛り。ふた皿がどうみても四人分ある上に、「おまけだよ」といってチキンがまるごとついてきました。お店の名前をあげておきますので健啖家のかたはチャレンジを。 pic.twitter.com/wPqyooNo7Z
— 松崎有理(作家)公式 (@yurimatsuzaki_n) 2019年1月15日
松崎が試したうちで、ほんとうに本格的なポルトガル料理店は以下のふたつ。
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Portugalia 葡多利正宗葡國菜
ポルトガルの老舗ビールメーカー「サグレス」が経営しているだけあって、真正ポルトガルの味。唯一ポルトガル語が通じた店。でもなぜかサグレスの生はありません。Arroz de pato(ダックライス)はローリエが入った上品な味で、チョリソも鴨もふんだんに入っていました。おしなべて、マカオのダックライスはポルトガルより鴨肉が多いと感じます。タイパ地区。 -
Mariazinha
入ったとたん、白人率が異様に高いので本格的とわかりました。となりのテーブルはポルトガル系現地人。前菜として出てきたコロッケやパンから、ハーフボトルのドウロの赤、メインとして頼んだフランセジーニャ、さいごのビッカ(=エスプレッソ)とデザートのパン・デ・ローまですべてポルトガルそのものの味。北部の街・ポルト色の強いメニュー構成でしたが、トリパスはやっていないそうです。聖ポール天主堂ちかくと交通至便。
ほかに、松崎は訪問しそびれたのですが下のレストランもポルトガル資本なのでだいじょうぶだと思います。
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Tromba Rija 皇家葡萄餚
マカオタワーにあります。
3,コーヒーとスイーツ
コーヒー
マカオのコーヒーはおいしいとあちこちに書かれていますが、過剰な期待をしてはなりません。どこでもたった1ユーロで極上のエスプレッソが飲めるポルトガルとは雲泥の差です。松崎が唯一満足できたのは上で紹介した Mariazinha だけでした。ひょっとしたら Portugalia もおいしいのかもしれませんが、メイン料理が多すぎてコーヒーまでたどりつけませんでした。
いっぽうお茶はもうほんとにおいしい。ホテルの無料サービスでついてくるティーバッグのお茶さえおいしいので毎朝かならず飲んでいました。松崎はお茶そんなに好きではないのに、ですよ。
エッグタルト=パステル・デ・ナタなのか
「つぎ、デザート」
と少女がいうので、ふたりは南欧小路へ歩を進め、人気ベーカリーで卵タルトを買い求めた。店の前のベンチに座り、釜から出したばかりの焼きたてをほおばる。まだあたたかいねっとりしたカスタードとさくさくのパイ生地はおよそ考えるかぎり最良の組みあわせだ。
(「5まで数える」)
マカオの二大エッグタルトを食べてみました。
結論。まるで別もの。
マカオのエッグタルトは卵の割合が高く、あっさりした甘み。ポルトガルの甘く舌にからみつくようなカスタードクリームとはまったくちがいます。
ふしぎなのは Lord Stow’s Bakely 。日本では「アンドリューのエッグタルト」というブランド名で関西を中心にチェーン展開しており、東京でも催事等で手に入ります。この日本バージョンのエッグタルトは、かなりポルトガルのパステル・デ・ナタにちかいのですよ。まさかマカオと味を変えているとは思いませんでした。
ほかの店でもいくつか食べてみましたが、唯一パステル・デ・ナタといえそうだったのは以下の店。
ボラ・デ・ベルリンは生き残っているのか
上の写真でエッグタルトのとなりに写っている、穴のないドーナツみたいなもの。松崎がこよなく愛するポルトガル菓子、ボラ・デ・ベルリンです。
ポルトガルではドーナツ生地をふたつに割ってクリームをはさむのがスタンダートですが、金船餅屋ではなかに詰めていました。ミスドの「カスタードクリーム」みたいな感じです。
街角にパン屋があればくまなくのぞいてみましたが、ボラ・デ・ベルリンをつくっているところはほかに発見できませんでした。
結論。ボラ・デ・ベルリンはマカオではほぼ絶滅。
がっかりしてしまったボラ・デ・ベルリン・ファンのかた(どれだけいるかわかりませんが)のために、日本国内で食べられるところをご紹介します。
- Castella do Paulo 京都。カステラとポルトガル菓子の店。毎月25日限定でボラ・デ・ベルリンをつくってくれています。松崎はまだ買えていないので味はわかりません。
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赤丸ベーカリー 松崎の家の近くにある、いわゆる町のパン屋さん。ここの「クリームドーナツ」のビジュアルがボラ・デ・ベルリンに激似なので写真をお見せしましょう。ほおら、そっくり。
4,スーパーマーケット
外国のスーパーマーケットへ行くのがだいすきです。現地のひとの食卓をみるようで楽しいから。フランスではチーズ、ドイツではソーセージ、イタリアではパスタ、ベルギーではチョコレートのコーナーが、まるで茨城県のスーパーの納豆売り場のように広かったっけ。
ところがマカオでは、陳列されている商品のうちかなりの割合が日本製品でした。おめあてのポルトガル産商品はとてもすくない。ビターな味わいのポルトガルチョコレートが手に入るかと思いきや完全な肩すかしです。しかし魚の缶詰だけはそれなりにありました。長期保存がきくからでしょうね。
ポルトガル産ワインやビールも、それなりにありました。とくにビールはマカオには酒税がないこともあってとても安く買えます。
旧ポルトガル領のマカオにきています。拙作「5まで数える」の舞台のモデルとなった街です。マカオは酒税がないのでごらんのポルトガル産ビールが6パタカ=約100円で飲めます。https://t.co/9yoESeYDpf pic.twitter.com/xsxHoWaq2L
— 松崎有理(作家)公式 (@yurimatsuzaki_n) 2019年1月14日
ワインの価格は日本とさして変わりません。日本にも良心的価格設定のポルトガルワイン通販業者がいるので、マカオから重たい思いをしてわざわざ買ってくるより日本で通販したほうがいいと感じました。
5,ポルトガル語は通じるのか
うすうすお気づきでしょうが、ほぼ通じません。Bom Dia! とあいさつしても反応がうすい。たぶんわかっていないのでしょう。レストランでは、ポルトガル語でオーダーすると注文をまちがわれるおそがあります。英語のほうがはるかに無難です。
マカオにおけるポルトガル語は、アイルランドにおけるゲール語みたいな立ち位置なんだろうなと感じました。
6,結論
やっぱりマカオはポルトガルではありません。考えてみれば、あたりまえですね。
でもマカオにはマカオらしい、いいところがたくさんありました。以下で触れていますよ。
7,マカオ旅行お役立ち情報(ググっても出てこないことを中心に)
カジノに行かない旅の装備
ポルトガルに似て坂と石畳の多い街なので、歩きやすくしっかりした靴を。松崎はポルトガル旅行に使ったのとおなじショートブーツを履いていきました。厚底かつクッション性のよい靴で、これでなければマカオ歩きはそうとう苦労したことでしょう。
いっぽう、カジノにしか行かないひとたちはハイヒールとか履いてましたっけ。
電源プラグ事情
マカオのプラグはA/B/B3/C、と入り乱れていて「どれを持ってけばいいんだ」と困りました。ホテルに二度もメールで問い合わせたのに出発まで音沙汰なし。けっきょくぜんぶ用意しましたが、ホテルに着いたらこんなオチでした。
さいしょの夜の食事
成田便のばあい、マカオ国際空港への到着が夜の8時すぎ。なんだかんだで市内にたどりつくのが9時すぎになります。ふつうのレストランはそろそろラストオーダーとなってしまい、ゆっくり食事を味わえません。そんなときおすすめなのがここ。
もっともカジノへ行くひとたちは、カジノホテル内に24時間営業のレストランがあるので困らないでしょう。
マカオ国際空港
制限エリアでのさいごのお買い物。ワインコーナーはフランス、イタリアが中心でポルトガルワインはとてもすくなく、あっても高価格帯のみです。それと、チョコレートの種類がみょうに多いのが印象的でした。日本にはない Neuhaus も買えますよ。
この空港は小さいので飲食店も売店もすくなめ。水を買うキヨスクもないので自販機です。食事は、フードコートがあってなんとアフリカンチキンとダックライスが食べられます。
おすすめのマカオみやげ(無料~お安いものを中心に)
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スタンプ
マカオのいいところ①とにかくみんな優しい、治安がよい②歩道の敷石がリスボンそっくり③世界遺産や観光名所がいっぱいあってほぼ無料なうえ、それぞれオリジナルスタンプを作っていて楽しい。 pic.twitter.com/r2mvdnkBjf
— 松崎有理(作家)公式 (@yurimatsuzaki_n) 2019年1月15日
カジノに行かないマカオ旅行にはスタンプ帳を持っていくことを強くおすすめいたします。いっけんスタンプがなさそうでも、「スタンプありますか」ときいてみると奥から持ってきてくれたりします。ヨーロッパの観光地でこの手のスタンプをいちどもみたことがなかったので、これぞ東西文化の融合だと感じました。 -
アズレージョ柄のマスキングテープ
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硬貨
5MOPはめずらしい12角形です。さいしょのうちはありがたがっていましたが、市内にいっぱい流通していてそのうち慣れました。いっぽう8角形の2MOP硬貨にはいちどもめぐりあえず。お店のひとからお釣りをもらうとき「2ドル(*5)コインを混ぜてください」と頼んでみましたが「ないよ」といわれました。流通量がすくないのかもしれません。
*5 口頭では、「パタカ」ではなく「ドル」と呼びます。
マカオの市民たち
基本、いいひとばっかりです。態度がひかえめ、はにかんだような笑顔に好感が持てます。ローカルルール違反を注意してくるときですらひかえめで、「悪いのはこっちなのに」と恐縮してしまうほど。発展がめざましく変化のはやい街ですが、こういうところはどうか変わらないでほしいと思います。
若い人たちはすこし英語がわかります。ゆっくりはっきりしゃべってあげるのがコツ。年配のひとたちとはジェスチャーで。漢字文化圏なので筆談も可能ですからメモを携帯しましょう。滞在中、コミュニケーションにはさほど困りませんでした。たぶん、「この外国人とわかりあおう」という強い意思と辛抱強さ、やさしさがマカオ市民にあるからだと思います。
おすすめ情報源
- 『地球の歩き方 マカオ』鉄板です。鉄板の名に恥じず、ほんとうにくわしくてとても役に立ちました。上述のとおりマカオは変化のはげしい土地なので、できるだけ新しい版を購入するのがよいでしょう。
- 論區行賞 Step Out, Macao マカオ観光局公式アプリ。世界遺産周辺などおすすめウォーキングコースを8つも紹介。日本語表示可能、オフラインでもつかえます。なにより秀逸なのは、無線LANスポットとトイレの場所が表示されること。無料。
以上の情報は、いち旅行者による個人的見解が含まれています。不正確な点がありましたらぜひメールにておしらせください。公式Twitterへのコメントも大歓迎いたします。
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マカオは建築ずきなひとも楽しめる街。南欧風の可愛らしい建物や中国風の古い建物、ど派手なカジノホテルまで。なお写真の八角形の建物は図書館で、拙作「5まで数える」にも登場します。https://t.co/9yoESeYDpf pic.twitter.com/QjE2kTRjXd
— 松崎有理(作家)公式 (@yurimatsuzaki_n) 2019年1月15日
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