作成日:2019/10/11 最終更新日:2019/12/18 かいたひと:松崎有理
【もくじ】
ツアーの概要
スタートは諏訪大社上社前宮から
神長官守矢資料館(1991)
空飛ぶ泥舟(2010)
高過庵(2004)
低過庵(2017)
参加してみて気づいたこといろいろ
藤森照信さんといえば、唯一無二の印象的な建築を設計するかたとして前々から気になっておりました。
このたび、氏の生まれ故郷である長野県茅野市でフジモリ茶室ツアーなるものが催されると知って、さっそく行ってきましたよ。
ツアーの概要
ツアーの正式名称は『フジモリ茶室』プレミアムガイド。
高過庵の定員が四名という都合上、参加者三名以下の完全プライベートツアーとなっています。
なお三名のばあい参加費はひとりあたり7500円、二名のばあいはひとりあたり10000円。
はっきり申しあげて、この内容でこの値段は安すぎだと思いました。その理由は、以下を読めばおわかりになるでしょう。
スタートは諏訪大社上社前宮から
なぜここがスタート地点なのかというと、この近所で生まれ育った藤森先生の思想の原点だからなのだそうです。
なお前宮(まえみや)とは「以前の宮」の意味で、本宮ができる前からあったものとのこと。だから神社といってもプリミティブなおもかげをよく残しているんだそう。
くわしくは公式サイトで、諏訪大社の本宮と前宮の位置関係の説明をごらんください。
前宮のプリミティブさのあらわれとして、明確な境界がないことがあげられます。敷地のとちゅうで集落がはじまっちゃったりとかふつうです。
また、ガイドさんおすすめのここ。なんとこれが手水舎(ちょうずや)ですよ。
そしてこれが諏訪大社のシンボル、御柱(おんばしら)。
御柱祭とは巨木を四本、山から人力のみで切り出してきて敷地の四隅に立てるというこれまたプリミティブなお祭り。それもそのはず、長野県指定無形民俗文化財でもあります。なお七年にいちどしか行われません。
というわけで、諏訪のひとたちはなんでも四本の柱でかこんでしまう習性があるらしく、そこここでこんなものをみることができます。
神長官守矢資料館(1991)
さて予習を終えて、ついにフジモリ建築見学の開始。さいしょはもちろん藤森先生の処女作からです。
そもそも、なぜ当時は「建築史家」であった藤森先生がこの建物の設計をすることになったかというと。
守矢家とは、中世より諏訪大社の神官職・神長官(じんちょうかん)をずうっっっと務めてきたご一族。そのためたくさんの古文書を持っていて、それを収める建物が必要でした。
いまの守矢家の当主さんは藤森先生と幼なじみだったので、ふさわしい建築家を紹介してくれないかと頼みました。
話をきいて藤森先生は、
「そんなだいじな建物は、諏訪大社と茅野をよく知る人間でないと設計できない。そして、そんな人間は自分しかいない」(大意)
と考えたのです。
こうして、建築史家フジモリは建築家フジモリとなったのでした。
なお資料館でもらえる公式パンフには、藤森先生みずからによる建築解説が載っていましてこれがまた傑作なんですよ。
たとえば正面の四本の柱は、ラフを描いていたとき「ぐうぜん鉛筆がすべって軒をつきぬけてしまった」(大意)ために生まれたのだそう。
もちろんこの柱は上で説明した諏訪大社の御柱をあらわしています。その証拠はこの鳥みたいなかたちの金属片。薙鎌(なぎかま)といいまして、御柱となる予定の立木に目印としてうちつけておく祭器なのだそうです。
なおこのパンフ、建物の平面図も載っていてかなりうれしい。建設費総額は1億3678万円だとか豆知識も手に入ります。
さあ、いざ建物のなかへ。内部ももちろん圧巻。
そしてこれが噂の、御頭祭(おんとうさい)復元展示。
下のツイートは、国立科学博物館「大哺乳類展2」を鑑賞したときのもの。
「偶蹄目がいかに成功し、適応放散したか」がテーマの展示なんだけど、この絵をみるたび神長官守矢史料館の御頭祭を思い出すのはたぶん松崎くらいだと思う。https://t.co/84D7jIqIxW pic.twitter.com/j1CEYatkKv
— 松崎有理(作家)公式 (@yurimatsuzaki_n) 2019年4月20日
なお諏訪大社は鹿食免(かじきめん)という肉食を許す免状を出しています。
資料館には「鹿食免スタンプ」もあって、免状量産きぶんで遊べますよ。
とにかく入館料100円とは信じられない、建築と民俗学がすきだったらぜったい何時間でも滞在できるおすすめスポットです。
空飛ぶ泥舟(2010)
諏訪大社と資料館でフジモリ精神についてじゅうぶん学んだあとで。
やってまいりました茶室その1。
このツアーのいいところは、すべての茶室に入れるところ。
さてこの泥舟、ワイヤで吊ってあるしどうやって入るのかな、と思ったら。
構造は、この茶室をじっさいにつくった市民ワークショップのようすをみたほうがわかりやすいと思います。
高過庵(2004)
つづいて、すぐそばに見える高過庵へ移動。
記念すべきフジモリ茶室シリーズの第一作です。
きっかけは、細川護熙首相(当時)からの茶室設計依頼。なんとフランス大統領接待用。そのあとご自分でも茶室がほしくなってしまった、とのこと。
なお高過庵は、TIME誌の「世界のもっとも危険な建物トップテン」に入っているという話がまことに有名ですが、だれもソースにリンクをつけていないので以下に貼っておきますね。
Top 10 Precarious Buildings
(メテオラは個人的にずっと前からいってみたいと思っていました)
低過庵(2017)
さて地表へ降りて、いよいよ竪穴式茶室・低過庵へ入ります。
この茶室はみっつのうち最新です。アイデアだけは高過庵と同時に生まれていたのですが、なんだかんだで遅れてしまったのだそう。なおこれも、空飛ぶ泥舟と同様に市民ワークショップで作られたもの。
入ってみると、内部はまっくら。
なかではお茶の先生も待っていてくれます。
しばし暗闇を堪能したあと(なにせ都会では暗闇は貴重なのです)、人力で紐をひっぱることで天井がスライドオープンします。この日はよく晴れていましたからその明るさのギャップたるや。
ふつうの住居で天井がかんぜんに開くものなんてそうそうありませんから、「天井ひらくんだよねー」と予備知識があっても驚きます。予備知識なしだと心そこ度肝を抜かれます。だからツアーの同行者がフジモリ建築にあまりくわしくないばあい、このしかけはないしょにしておくと楽しいですよお互いに。
文字どおりの青天井のもと、おもむろにお茶会が催されました(ひょっとしたらこれは野点なんでしょうか)。藤森先生から建物をお借りしている都合上火をつかえないので、ポットのお湯です。お茶をたててくれる先生は本領発揮できないので少々不満そうではありました。
抹茶を飲んで、お菓子を食べて、よく晴れた秋の空をあおぎます。都会にはない空気のおいしさ。すごくぜいたくな気分になりました。茅野まできてほんとうによかったと思いました。
参加してみて気づいたこといろいろ
- 公共交通機関の便がひじょうに悪い。茅野駅から集合場所、解散場所から茅野駅まではタクシーで1200〜1300円ほど。とくに帰りでタクシーを呼ぶのに苦労したので、ツアーにタクシー迎車サービスまでついているとかんぺきだと思った
- 高過庵はかなり高く、窓も大きいので、晩秋や早春はきっと寒いだろうなと予想。しっかり着こんでいきましょう
- 3時間かかるツアーでトレッキングもあるというので、体のよわい松崎は戦々恐々としていたのだけどそれほど険しい山道ではありませんでした。ただし歩きやすい靴必須
- トイレポイントは神長官守矢資料館だけです
この記事がおもしろかったら「いいね」「リツイート」してくださると松崎はたいへんたいへんうれしいです。
藤森照信氏設計の三大奇想茶室「空飛ぶ泥舟」「高過庵」「低過庵」じっさいに入れるツアーに参加したもようを記事にしました。
諏訪大社と神長官守矢資料館もコースに入っているので、建築ずきだけでなく歴史・民俗ずきなひとにもおすすめの超充実ツアーでしたよ。https://t.co/1S7na6uwbR— 松崎有理(作家)公式 (@yurimatsuzaki_n) 2019年10月12日
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