試し読みなど著作関連記事

本を出すときっていろんなことが起こるのです。そのこぼれ話、ボツネタ救済、新刊発売記念企画など。作品の試し読みプレゼントPDFのダウンロード(完全無料、お名前もメアドも不要)もこちらです。
*『5まで数える』収録短編「やつはアル・クシガイだ――疑似科学バスターズ」は筑摩書房公式サイトにて全文試し読みができます。
*『小説すばる』(集英社)2017年6月号掲載の短編「惑星Xの憂鬱」が集英社公式サイトにて冒頭試し読みできます。

「裸の経済学者」冒頭部分試し読み(『代書屋ミクラ』収録)

作成日:2017/09/11 最終更新日:2017/09/18 かいたひと:松崎有理

あんぱんアイコン

 なんだ、これは。
 そのあんぱんをひとくちかじってぼくは驚愕した。
 あわててのこりを二分割し、右手に持った片方を目の高さより上にもちあげてみる。割った部分からのぞく小豆餡は、晩秋の午後の淡い日差しに透けてうすいむらさき色にみえた。
 はんぶんになったあんぱんをみつめて黙考する。究極、ということばがふと思い浮かんだ。究極の問い、究極の解法、そして究極の答え。究極の芸術品や究極の酒、究極の料理なんてものもあるだろう。
 もしもあんぱんの世界に究極が存在するのなら。

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「ぼくのおじさん」冒頭部分試し読み(『代書屋ミクラ』収録)

作成日:2017/09/11 最終更新日:2017/09/17 かいたひと:松崎有理

蛸アイコン

 特急に乗ったつもりがじつは急行だった、と気づいたのは、すでに旅程を半分もすぎたころだった。疲れのためか座席で熟睡していたので、じぶんの乗る列車がむやみにたくさんの駅で停車していることにまったく気づかなかった。

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「超現実な彼女」冒頭部分試し読み(『代書屋ミクラ』収録)

作成日:2017/09/03 最終更新日:2017/09/15 かいたひと:松崎有理

お花アイコン

「名前を教えてください」
 刻文丁通の花屋を三度めにおとずれた夜、店員の彼女に思いきってそうきいてみた。
 彼女はぼくが買った一本きりの赤いばらを包む手をとめて、目をあげた。白い丸顔が微笑する。小さな唇が動く。
「レニエです」
 それはこの店の名前だ。

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『架空論文』特設ページ

作成日:2017/07/25 最終更新日:2017/09/12 かいたひと:松崎有理

『鼻行類』か、それともソーカル事件か。
松崎有理が月刊電子文芸雑誌『アレ!』で2011~2012年に連載していた「架空論文」シリーズがついに書籍化されます。
このページでは、発売に先立ってその内容を随時公開していきます。

「架空論文」サンプル公開いたします。

こんな架空論文がほかに10本も入っています。でも、論文集ではなくて小説なんです。ラストにはおまけショートショートもついてますよ。(2017/07/25更新)

島弧西部古都市において特異的にみられる奇習“繰り返し「ぶぶ漬けいかがどす」ゲーム”は戦略的行動か? ——解析およびその意義の検証

ユーリー小松崎(比較民族文化研究所)、松崎有理(情報数理生命科学研究所)

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『代書屋ミクラ すごろく巡礼』冒頭部分試し読み

作成日:2017/09/03 最終更新日:2017/09/06 かいたひと:松崎有理

「これは結婚できない呪いの秘薬」
 その男は緑色の瓶の中身をぼくの頬に塗り終え、満足げな笑みをうかべた。三十歳くらいのさも賢そうな男前で、ふだんはめったに笑わない。
「おまえはもう一生結婚することができない」
 ぼくの目をのぞきこむ。また笑う。美形なだけにいっそう怖い。
 負けるもんか。負けないぞ。なにが呪いだ、呪いの正体とは思いこみだ。信じさえしなければなんの効力もない。
 大声でそう叫んでやりたかった。だが口は開かない。そもそも全身にわたって、まったく、指先さえも動かすことができなかった。
 あああああああああ。かわりに心のなかでせいいっぱい叫んだ。あああああああああ。動け、このからだ。声を出すんだ。声を。あああああああああ。
「あああああああああ」
 勢いよく布団を払いのけて起きあがった。短距離を全力疾走した直後のように肩が上下していた。心臓が跳ねている。寝間着がいやな汗で濡れている。
 あの夢か。ひさしぶりだな。
 見慣れた古い貸間の古い柱と古い掛け時計をぼんやりながめながら、夢の内容を反芻した。ふだんは忘れ去っているけれど、春がくるころかならず夢のかたちで記憶がよみがえる。三年前のこの季節、代書屋としての初仕事。依頼人は意地悪な研究者。ぼくはまだ依頼人との適切な距離のとりかたを知らず、反発したあげく彼の研究主題でもあった呪いをかけられるはめになった。しかも。
 結婚できない呪いだ。

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例によってボツネタ救済します——『5まで数える』特設サイト連動企画

作成日:2017/06/08 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

#このページは筑摩書房『5まで数える』特設サイトと連動しています。

世に出た結果の影には、その何倍ものボツ作品がある。
もちろん、埋もれさせるには少々もったいないものも存在する。
恒例、ボツネタ救済企画。
今回のテーマは「初の特設サイトでいっぱいボツになった」です。

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『5まで数える』表題作冒頭部分試し読み

作成日:2017/09/02 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。 寺田寅彦「小爆発二件」

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 少年が敵の姿をはっきり認識したのは五年生になったさいしょの日であった。
 九月。まだまだ秋とは名ばかりの、強い日差しと亜熱帯的なスコールに悩まされる時期である。少年のクラスの担任となったのは新顔で、若く、きびきびした動きの小柄な女性だった。彼女は教壇に立ち、児童たちの前でファンと名乗った。きれいな発音の英語だった。四年のとき担任だったイギリス人男性教師よりもきれいなくらいだ。
「先生、かわいいっ」
「どのへんに住んでるんですか。旧市街、それとも新地区」
「スリーサイズは。好きなタイプは」
 ませた男子たちがつぎつぎにませた質問を発する。女子たちは彼らを軽蔑の目でながめながらも、やはり若い新任教師にたいし興味津々だ。クラスの六割が中国系で三割がヨーロッパ系、残り一割がその他の民族集団で、少年はみっつめのカテゴリに属している。この街の公用語は歴史的経緯から南欧語だが事実上の共通語は中国語であり、観光都市という性格から学校での授業はすべて英語で行われていた。

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「砂漠」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/02 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  人間のやることは凶暴すぎる。  宮崎駿「空のいけにえ」(サン=テグジュペリ『人間の土地』、新潮文庫より)

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 どこにも怪我はないようだった。
 不幸中のさいわい、と定型句をつぶやいて、少年は空をみあげた。嫌味なくらい徹底的に晴れわたっていて、雲の存在など忘れてしまったかのようである。太陽はほぼ空の頂点に達しており、残酷なほど強烈に地表をあぶりつづけている。火にかけた鍋の底にいるみたいだった。いまは十二月、この大陸は真夏だ。
 はたしてこれは幸運なのか不運なのか。

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