理系女子応援企画・その1――東北大学サイエンス・エンジェルとは



*本稿は取材先の認可を経て執筆、掲載しています。


東北大学サイエンス・エンジェル ロゴ

「おもしろそう! たのしそう! かっこいい! ――好奇心のタネ、とどけます」
(サイエンス・エンジェル リーフレットより 一部改変引用)



ごあんない:

東北大学サイエンス・エンジェル 公式ホームページ
東北大学 女性研究者育成支援推進室
東北大学 女性研究者育成支援推進室 メンバーの紹介




きっかけは、ぐうぜんだった。
松崎がウェブをみていて、母校のHPでたまたま発見した「東北大学サイエンス・エンジェル」 *)。
しらべてみると、自然科学系の女子大学院生があつまって、高校生や市民の前で実験イベントをやっているらしい。
……なんて楽しそう
在学中にこんな活動があったら、ぜったいに参加していた。なにより同性のともだちがほしかったし。切実に。

東北大学は、国内初の女子学生受け入れを行った大学なんだけど
それでも、理系の女の子は絶対数がすくなかった。昔も、いまも。

これは、応援せねばなるまい。

まずはインタビューを、とコンタクトをとると
とても好意的な返信がかえってきて、取材の許可をいただいた。

松崎は一路仙台にとび、
東北大学女性研究者育成支援推進室 次世代支援班 班長の倉田 祥一朗先生、
および実際の活動を担当する推進室助手の橋爪 圭先生に、お話をうかがってきた。


(以下、文中では敬称略)

橋爪 まずは、これを。

東北大学サイエンス・エンジェル Science Angel Book

―― 『Science Angel Book』 ですね。うわあ、ありがとうございます。
ほしかったんですよ。でも、もうないみたいで、手に入らなくて。

橋爪 おととし発行しましたが、今年で在庫がなくなる予定です。

――貴重なものをいただいたところで、さっそく質問のほうを。
サイエンス・エンジェル活動について、一般のかたにもわかるように説明していただけますか?

倉田 それでは、わたしのほうから(と、資料とPPTをみせてくださる)。
東北大学サイエンス・エンジェル(以下SAと省略)は、平成18年より三年間の予定で、文部科学省「女性研究者支援モデル育成事業」として開始されました。
終了後は、東北大学の独自費で活動を継続することになり、現在にいたっています。

――そうですか、いちど終わったけれども、大学じたいが主催するようになった、と。
やはり、活動が好評だったからですか?

倉田 はい。活動はあるていど成功した、と思っています。
当初はSAメンバーの母校である高校への出張セミナーのみだったのですが、
しだいに範囲が広がってきて、中学生やその保護者、さらに小学生、
また科学館や市民センターでの一般市民のみなさんも対象にして、体験型イベントを行うようになりました。
小学生を相手に科学的説明をするのはそうとうむずかしいですが、
むずかしいなりに、SAたちもやりがいを感じているようです。
また、活動二年めからは、SAたち自身がイベントを企画するワーキンググループをつくりました。
その際にできたネットワークが、彼女たちの財産になっています。

――理系女子学生ネットワークですか、うらやましい。わたしたちのころにもほしかった。

倉田 また、SA活動により、社会人基礎力が向上する、というメリットもあります。
企画力・マネージメント・自己啓発・コミュニケーションなど、ですね。
やりとげた、という充実感もうまれるようです。

――それでは、SA活動の目的を手短にいうと?

倉田 双方向の次世代支援です。
次の世代、具体的には女子中高生にとっての女性研究者ロールモデル(お手本)となること、科学の魅力やおもしろさを教師や保護者のかたも含めて理解していただくこと。
加えて、科学イベントなどで地域社会に貢献できたらいいな、とも考えています。

――SAを志望される理系女子学生さんたちのおもな動機は?

橋爪 さまざまですね。
たとえば、理系の女性がふえてほしい、とか。自分が高校生のときにロールモデルが存在しなかったので、自分がなってみたい、とか。

―― 新規採用人数はどのくらいですか? 選考基準ってあるんですか?

倉田 文科省モデル育成事業時代は50人/年、大学独自費になった昨年からは35〜40人/年です。
募集→選考→任命、という流れになりますが、ここ数年は全員採用です。

橋爪 今年で五年めですので、高校生だったときにSAの出張セミナーを体験し、自分も参加したい、と入ってくる世代がちょうどあらわれはじめたところなんですよ。

――運営面でいちばんたいへんなことはなんですか?

橋爪 みなさん忙しい理系大学院生なので、まずスケジュールあわせ、ですね。
それから、東北大学特有の問題として、各学部が地理的に分散しているのですぐに集まれない

――典型的なタコ足大学、ですものね。

橋爪 それと、最近はSAの評判も広がり、出張セミナー・イベントの依頼が増えてきたので、打ちあわせ調整などの対応がたいへんになってきました。

――逆に、やっていてよかったと思うことは?

倉田 SAたちが成長しているな、と感じるときです。また、東北大学が社会に貢献できているなと思うとき。

――おふたりがかかわってきた範囲内でかんじる手応えや成果は? また、SAの認知度はどのくらいだと思いますか?

倉田 三年目までは文科省の予算で、こちらから声をかけて出張セミナーをしたこともあったのですが、四年目からは大学の独自費となり、先方からの依頼のみによる活動となりました。切り替わりの年はばたばたしてあまり依頼もありませんでしたが、今年はとても多い。
認知されてきていると思いますね。もう一回やって、というリピーター依頼もあります。口コミで市民センターにも広まっているようです。

――理系学部の女子受験者が目にみえてふえた、なんてあります?

倉田・橋爪 まだ五年めですし、受験者には景気や世相が現れますので、実数としてははっきり見えていません。でも、続けることが大事だと思います。

――女性のキャリア形成について思うところを話してください。

倉田 本当は理科がすきなんだけど、親や教師の意見で文系にいってしまう、という子も多い。男女問わずすべての人が、自分の能力を発揮できる進路を選択するようになればいいですね。

橋爪 結婚、出産、育児など、女性特有のライフイベントにどう対応するかが問題、というのを耳にします。
研究者のばあい、大学の仕事とバランスをとらねばならなりません。これまでの女性研究者の先輩方は個々に、それぞれのやり方でやっていらっしゃるので、そのまま一般的なモデルになるかというとちょっとむずかしいです。しかし、お話をきくのは非常に参考になります。

――さきほど倉田先生にみせていただいたPPTなのですが **) :

東北大学サイエンス・エンジェル 学校教育におけるジェンダー・バイアスに関する研究


に、ものすごく衝撃をうけました。理科ってそんなに人気がないのでしょうか?

倉田 そんなことはありません。子供たちは理科がだいすきですよ。イベントでは目が輝いています。不思議なこと、未知のものにたいする興味はみなが持っている。
ただ、進路としてえらぶまでにはいたっていないようです。保護者、そして教師の理解を得ていくことが、これからの重要な課題です。

――SAの人気のひみつってなんなんでしょう?

倉田 理系女子大学院生が、素のままで講義してくれるところじゃあないでしょうか。

――いちばん人気だった企画は?

橋爪 じつは、企画の内容は毎回ちがうんです。でも、いつやってもひじょうに好評ですよ。

――他大学でも、同様な活動がはじまりつつあるようですが?

橋爪 名古屋大学にあかりんご隊がありますね。
やはりモデル支援事業で誕生しました。学内の学童保育所などで、科学実験イベントを行っているようです。
ほかに、北大、三重大、新潟大などにも似た取りくみがあります。

――大学間の連携は考えていらっしゃいますか?

橋爪 してみたいのですが、いまのところみな、活動をはじめたばかりですから。でも、シンポジウムのときに情報交換をしています。

――SA活動の今後は、どうされる予定ですか?

倉田 大学独自費となりましたので、できるかぎり継続したいと思っています。
当初は、わたしたち研究者が仕事のあいまに運営していたのでたいへんでしたが、現在は橋爪先生のような専任のかたもでき、事務員も増えて運営面での体制は磐石です。このかたちで続けることができればと思います。

――最後になにか、おっしゃっておくべきことは?

倉田 たまに誤解されることがあるのですが、SAによる出張セミナーは女子生徒だけを対象としているわけではありません。男女問わず、科学のおもしろさを伝えたいと思っています。
また、公共性を重視しています。SAは東北大学総長から任命されており、給与が出ていますので、出張先からの対価はいっさいいただいておりません。しかし、ときには企業からの依頼も受けつけておりますよ。

――それでは、ほんとうに最後に。進路に悩む女子中高生になにかひとこと、お願いします。

倉田 好きなことはあきらめずにつづけてください

橋爪 それにつきますね。


(2010年9月17日 東北大学大学院薬学研究科 生命機能解析学分野にて)


*) 「サイエンス・エンジェル」 名前の由来について:
この活動の原案を考えたのは、医学研究科の大隅典子先生と、理学研究科の小谷元子先生。名づけ親は大隅先生、および医工学研究科の田中真美先生
天使とは本来、知らせ、とくによい知らせをもたらしてくれるメッセンジャー。科学はたのしい、ということを次世代に伝える役割を、との願いをこめて。

**) 資料:
『学校教育におけるジェンダー・バイアスに関する研究 理科教育・学習におけるジェンダー・バイアス』
 科学研究費補助基礎研究 (2)(B) 研究成果報告書 平成 11 年度〜平成 13 年度
 研究代表者 村松泰子 (東京学芸大学)
所蔵 女性教育情報センター



2010/09/23 執筆

理系女子応援企画・その2――東北大学サイエンス・エンジェルに質問してみたにつづく