『いつだってやめられる』レビュー:失業研究者逆襲コメディ映画シリーズ

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作成日:2018/06/04 最終更新日:2018/07/14 かいたひと:松崎有理

この映画は三部作です:

#公開情報は東京地区のみ記しています。他地域でのスケジュールはリンク先をごらんください。
#じつは松崎、不覚にもこの映画の存在に気づいたのは第二作『10人の怒れる教授たち』公開時。そのあと第一作『7人の危ない教授たち』を鑑賞しました。第三作『名誉学位』は見そびれました。ほんとにくやしいです。もし再上映することがあったらぜったい見たいしこの記事にも加筆したいので、情報をメールないしTwitterでお寄せくださるととてもとても助かります。

【もくじ】
1,どんな映画か
2,メンバー紹介
3,ネタバレしないていどにあらすじ
4,みどころ(注意:若干のネタバレあり)
5,まとめ(みなさんへ、おすすめのことばなど)
6,ほかのひとによるレビュー

1,どんな映画か

ひとことでいうと、『オーシャンズ11』のイタリアンコメディバージョンです。特色は、メンバーたち全員が失業した、ないし失業寸前の研究者ってところ。研究者のポスト問題についてはこれまで拙作「代書屋」シリーズ『架空論文投稿計画』なんかでいろいろ描いてきたので、松崎としてはこの映画、どうしても注目しちゃうわけですよ。

2,メンバー紹介

  • 神経生物学者ピエトロ 主人公。物語のスタート時点で37歳、転職活動するには微妙なお年ごろ。恋人ジュリアとは5年も同棲しており、さいきんお金がらみの口論がたえない
  • 化学者アルベルト なんでも分析できるすごいひとなのだが、いまは中華料理店で皿洗いのアルバイト。実験にかんしては完璧主義で、データのためには自己実験すら辞さない。その姿勢があだとなって麻薬中毒に
  • マクロ経済学者バルトロメオ もちろん数学に強い、しかしギャンブルのせいで多額の借金をつくったりロマの女性と結婚するはめになったりといろいろ問題が多い
  • 考古学者アルトゥーロ 文系フィールドワーカーその1。だからいつも服装が調査着っぽい。ローマの過去や遺物にすごくくわしい。かろうじて大学に籍があるが極貧。考古学科のワゴン車を移動手段として調達するあたりが地味にリアル
  • 文化人類学者アンドレア 文系フィールドワーカーその2。すごい論文を書いたすごい研究者だけど無職。人類学者らしく装いや話術でどこへでも溶けこみ、だれとでもうちとけられる、はずだが「おまえ大卒だから」という理由で工場での職を得られなかったりしている
  • 記号学者マッティアと碑銘学者ジョルジョ 古典研究者コンビ。ときどきラテン語で会話している天然学者系。第一部ではいっしょにガソリンスタンドでバイト、第二部ではホテルでバイト。いろんな意味でみていてはらはらするふたり組
  • 解剖学者ジュリオ 第二部より登場。アクション担当。人体の構造を知りつくしているのが強み
  • 工学者ルーチョ 第二部より登場。独創的な装備や武器をつくってくれるべんりなひと。むだにイケメン
  • 教会法学者ヴィットリオ 第一部では名前のみ、第二部より本格的に登場。現役弁護士としてチームをバックアップ、でも専門は教会法。なお彼だけ犯罪歴がない

3,ネタバレしないていどにあらすじ

第一部『7人の危ない教授たち』

神経生物学者のピエトロは大学で任期つき研究員をしている。才能はありあまるほどあるのに、予算削減のあおりをくらって大学でのポストを失ってしまう。だがその事実を同棲中の恋人ジュリアに告げることができない。ところが月謝滞納の超ふまじめ生徒のおかげで合法ドラッグを製造して販売するアイデアを思いつき、おなじように不遇をかこっている研究者たちに声をかける。
おれたちから研究をとったらなにも残らない。自分たちの手で、研究する場所を取り戻すんだ」(大意)
7人のメンバーはめいめいの専門知識を活かして高品質の合法麻薬をつくり、たくみな手段で販売。商売は大成功にみえたが、勘のよい恋人ジュリアはなにか怪しいと思っている。また彼らの商売は大物マフィアに目をつけられてしまう。

第二部『10人の怒れる教授たち』

前作で全員の罪をかぶって刑務所に入ったリーダーのピエトロ。妊娠したジュリアには面会のたびいいわけばかり。あるとき彼は女性警部パオラと取引し、彼と仲間たちの罪を帳消しにするかわり合法ドラッグ30種を摘発することになった。ピエトロは仲間たちを再結集し、さらに「海外流出した頭脳」であるところのジュリオとルーチョも新規メンバーとして、30種のドラッグをつぎつぎ摘発。だがもっとも流通量の多い「ソポックス」というドラッグが摘発から漏れていた。かれらはこれも追うことになる。そうこうするうちジュリアの出産が迫る。はたして彼はソポックスをみつけてぶじ出所し、赤ちゃんの顔をみることができるのか。

4,みどころ(注意:若干のネタバレあり)

  • とにかく研究者たちが個性的。当初7人、のち10人に増えてチームものとしては多いほうなんだけどまず混乱しません。とくに松崎が惹かれるのは化学者アルベルト。中華料理店で出世してウェイターになるんだとかいいつつも、ひとたび実験室に入るとすぐさまプロ研究者の顔に。そのプロ魂のおかげで破滅していくさまが皮肉でおかし悲しいのです。
  • ストーリー展開は王道です。ブレイク・スナイダーさんが著書『10のストーリー・タイプから学ぶ脚本術』で分類するところの「強盗羊毛」タイプ(つまり『オーシャンズ11』ね)。お手本みたいなプロットなのでシナリオ執筆に興味のあるひとは鑑賞後に自分でプロットを起こしてみるとよいと思います。
  • メインキャラクタが研究者ということで地味な内容かと予想してましたが、ハリウッドばりのアクションシーンも楽しめます。しかもちゃんとこの作品らしくアレンジされているのが好印象。アクションなんだけどコメディで、ばっちり笑えます。ちいさめの劇場でみるとみんなでいっしょに笑えて一体感も味わえてお得です。二時間ちかい尺だけどあっというまでした。
  • ひとつだけ難を挙げれば、ガスクロHPLCかも)がチープすぎ。あまりに安っぽいのでわたあめ製造機かと思ったくらい。それと、精密機械をトラックの荷台にむきだしで積んじゃうのも無茶すぎ。あれをガスクロと観客に気づかせないことが叙述トリックみたいな役割をはたしているのではと解釈しましたよ。

5,まとめ(みなさんへ、おすすめのことばなど)

  • 研究者のみなさんへ。「失業研究者の映画なんて暗い気分になりそうだからみたくない」というのは即断にすぎます。だいじょうぶ、あれほど恐ろしいことはけっしてあなたには起こりません。鑑賞後はきっと「自分はまだ幸せだ」と胸をなで下ろすことになるでしょう。
  • 研究者以外のみなさんへ。本作は学者ものですが、小難しいところはとくにありません。娯楽映画として気楽にたのしむことができます。

6,ほかのひとによるレビュー

イタリア悲喜劇映画『いつだってやめられる』がやめられない!|シドニー・シビリア監督インタビュー
レビューというか監督へのインタビュー。執筆者さんも現役研究者なので思い入れが詰まっている良記事です。

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松崎有理はプロ小説家です。
プロフィール
作品一覧

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嘘の論文、いっぱい書いてみました。


『架空論文投稿計画 あらゆる意味ででっちあげられた数章』
出版社 光文社
発売日 2017/10/20
単行本、四六判
定価 1600円(税別)
デザインと装丁 宗利淳一
第一章と「ぶぶ漬け」論文まるごと試し読み
●七冊目の単行本は破天荒な変化球。まるで『鼻行類』のようにリアルでおかしな嘘論文が11本も入っています。でも、論文集ではなく小説です。これらのへんな論文は、ひとりの勇気ある研究者が研究不正の実態をあばくため計画した「架空論文投稿実験」用にわざと嘘っぽく書いたものなのです。たとえばそのタイトルは、
「島弧西部古都市において特異的にみられる奇習“繰り返し『ぶぶ漬けいかがどす』ゲーム”は戦略的行動か?」
「経済学者は猫よりも合理的なのか?」
「図書館所蔵の推理小説に“犯人こいつ”と書きこむひとはどんなひとか」
「おやじギャグの社会行動学的意義・その数理解析」
「比較生物学から導かれる無毛と長寿との関係――はげは長生き?」
などなど。タイトルからしておかしいのに、投稿された論文にだれもダメだししてくれません。そんな実験を続けるうち、研究者に妨害の魔の手が。謎の組織・論文警察やその黒幕の正体は。そして主人公に接近する黒衣の超美人ハーフ研究者は敵か味方か。「代書屋」シリーズでおなじみ、敏腕代筆業者のトキトーさんも登場します。
学術業界(架空)裏話にひたっていただくため、専門用語にはていねいに註をつけました。巻末にはショートショートのおまけつき。コスパには自信があります。するめを噛むように味わっていただけたら幸いです。
●もくじ、帯ほかくわしい情報は当サイト内架空論文特設ページよりごらんになれます。

松崎有理のほかの著作については、作品一覧ページをごらんください。

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