第3回創元SF短編賞受賞者インタビュー

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作成日:2012/07/26 最終更新日:2017/10/08 かいたひと:松崎有理

【もくじ】
まえがき・インタビュー実現までの経緯
正賞受賞者・理山貞二さん
優秀賞受賞者・オキシタケヒコさん
おまけ

まえがき・インタビュー実現までの経緯

第3回創元SF短編賞正賞受賞者

第3回創元SF短編賞正賞受賞者、理山貞二さんより送られてきた画像。「阪大SF研究会の先輩から受賞祝いにもらった絵です。しかし、ネタばれだなこれは」どこがどうネタバレなのか松崎にはまったくわからず。担当氏の補足によると「『宇宙の戦士』の機動歩兵だよ。なんでわかんないかなあ」すみませんモデルとかビジュアルよわいのです。「これってさいきんつくり直された加藤直之さんデザインのほうですよね理山さん」「そうですよくおわかりで」と、さらにディープな世界が展開。いやはや。

松崎の出身賞である創元SF短編賞もぶじ、第3回が終了。
さる2012年7月14日(土)19時より、ベルサール飯田橋駅前において贈呈式、および年刊日本SF傑作選『拡張幻想』刊行記念トークイベントが行われた。

もちろん松崎は前回にひきつづき、今回も取材モード全開で参加するつもりだった、のだけれど。
受賞者インタビューももちろんするつもりだった、のだけれど。

贈呈式数日前。松崎は大腸内視鏡検査をうけた。
「まんいちポリープみつかってもね。その場ではとりませんから。負担おおきいし。入院して、あらためて、ね」
という担当医の事前説明だったので、じゃあ贈呈式イベント参加にはなんの支障もないだろう、とあんしんして検査にのぞんだのだが。

あまかった。

「あ。あったポリープ。
とるよー
「ええっそんな約束がちg」(麻酔きいてるため以下不明瞭)

その後、一週間安静命令。イベントなどもってのほか。

しかし。
自宅でうつうつと静養中の松崎のもとへ、こんなメールがまいこんだ:

「はじめまして、理山貞二です。第3回創元SF短編賞を受賞いたしました。
今回、贈呈式イベントに出席されないとの由、伺いました。
松崎さんのインタビューを非常に楽しみにしていたのですが残念です。
つきましては想定インタビューを作成してみましたのでご利用ください」

なんと。第2回創元SF短編賞受賞者インタビューでつかった質問項目に沿って、回答がていねいに書いてあるではないか。

そこで松崎おもいついた:
「これ。優秀賞のオキシタケヒコさんや担当氏も引きこんで、アニマ・ソラリス形式のメールインタビューにしたら、おもしろいんじゃないの」

というわけでさっそく、オキシさんと担当氏にメール連絡。松崎は自宅で寝たまま、完全メールインタビューが実現した。
以下、公開いたします。

ではまず、第3回創元SF短編賞正賞受賞者・理山貞二(りやま ていじ)さん編から。

正賞受賞者・理山貞二さん

第3回創元SF短編賞正賞受賞者

第3回創元SF短編賞正賞受賞者、理山貞二さん近影。……って、ごじぶんで撮ってますね。

――まずはご自身のことを。
理山「1964年大阪生まれ。大阪大学卒。創作活動は大学のSF研究会で行っていましたが、卒業後メーカー就職、以後20年以上社会人になりすまし、ずっとSFを読んできました」
――“なりすまし”っていいですね。いきなりSF的です。あ。すみませんつづきをどうぞ。
理山「創元SF短編賞は第二回からの応募で、そのときは一次選考すら通過しませんでした。今回このような賞をいただき、たいへん驚いています。日下さんのおっしゃるとおり、『裡なる物語』を発表していきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします」
――小説を書こうと思ったきっかけは。
理山「通勤電車の中で『虚構機関』を読みながら、また書きたいなと、ぼんやり考えたのは覚えています。それが、2010年の暮れに、どうしても書きたいと思うようになりました。理由は判らないのですが……。就職してすぐ地方に赴任して、初仕事でいろいろ大変だった時期にハヤカワSFコンテストが終了しています。以来SFの短編コンテストというのはなかったかと思います。で、東京創元社さんがコンテストを始められたのを見て、めらめら闘争心が湧いた。この辺が真相かと」
――“また”ってことは大学のサークル以来、って意味ですよね。それでは学生時代、いやもっと前なのかな、そもそも書きはじめようと思ったきっかけはなんでしょうか。
理山「ものを書くのは昔から好きだったようです。最初は小学3年生のとき、中岡俊哉著、秋田書店の『世界のウルトラ怪事件』をノートに書き写して私家版を創ろうとしていました。
創作は小学生5年生のときから始めました。自主学習ノート、というのを毎日提出するのですが、そのときショートショートを書いたのを担任の先生が見てくれました。内容はほとんど星新一の真似なんですけど、結構よろこんでくれまして。きっかけはたぶんその辺だと思います。
中学のときは、創作はお休みしてSFを大量に読んでいました。高校に入ってからまたSFの創作を再開、A4のレポート用紙に書いて友達に見せていました。
大学でSF研究会があったので、そこでも同じことを続けて……という感じですね」
――尊敬する作家は。
理山「SF作家を抜きにすれば吉村昭さん。膨大な調査で書かれる。自分には絶対書けない」
――座右の書は。
理山「坂根厳夫『遊びの博物誌』。これ中学高校のとき毎日開いて楽しんでいました。今は実家の押入れですけど」
――小説をかくときに気をつけていることってなんですか。
理山「読者が読みたい部分がどこなのか、考えながら書くことかな」
――あなたにとって小説を書くってなんでしょう。
理山「まだわかりません。お答えするためには、もっと書かないと。大学時代は何も考えずに書いていました。まずはその感覚から思い出そうとリハビリしている感じです」
――筆暦は。
理山「過去で7年、最近で2年、合わせて9年ですね」
――投稿暦は。
理山「2年です。投稿は創元SF短編賞のみです」
――今回、創元SF短編賞に応募されましたが、長編と短編ではどちらがとくいですか。
理山「実は長編型だと薄々勘づいています。しかしまだ時間の都合で難しい」
――この賞をえらんだ理由は。
理山「やっぱり選考者に大森さんが居たことです。ずっと山本弘さんか大森さんか、どちらかに面白いと言ってもらえる日がくるといいな、と考えていました」
――この賞を知った媒体は。
理山「『量子回廊』の巻末の案内です」
――応募に際しどのような準備をしましたか。具体的になにをしましたか。
理山「量子力学の本にはかなりの冊数あたって、基本的なアイデアに穴がないかは確認しました。でも、この時点ではそんなにたいしたことはしていないです。むしろ大変だったのは受賞後の書き直しの段階です。話があれですから原典や地図を全部確認しなおしました。特に昔のSFは絶版が多くて探すのも大変
――ああそうたいへんなんですよねえ書き直し。あれで、プロ作家としてのさいしょの洗礼をうけるわけなのですよ。と、語り出すと長くなるのでつづきを。
受賞作を書きあげるにはどのくらいかかりましたか。
理山「半年です。プロットに3ヶ月、執筆に3ヵ月」
――受賞までに書いた枚数を通算すると、どれくらいですか。
理山「過去に書いたのを合わせると1000枚くらいだと思います。ちなみに24年以前は手書きでした」
――手書きかあ。したことないのできいてみたい。
手書きからワープロ書きになって、創作する上での変化はありましたか。
理山「A4のレポート用紙にみっちり書いて、7~12枚くらいの短編にしていました。しかし横書きで1行の文字数が不定なので、この段階で枚数が把握できないです。ワープロにしてから枚数と配分の把握が楽になりました。逆に、大きな修正をしたあと比較するのがつらくなりました」
――受賞の連絡がきたときなにをしていましたか。
理山「パソコンでゲームをして遊んでいました。念のために、いわゆるネトゲではなくブラウザゲームというやつです」
――つっこもうと思ってたところ、先回りで回答していただきありがとうございます。
では。受賞のしらせをきいて、最初にいった言葉は。
理山「うろたえまくっていました。『あ、あ、あ、はい私です』とかそんな感じ。
これ授賞式のとき、HALCON会場にいた方から伺ったのですが(*)、何か他人事みたいに聞こえたそうです。大変失礼いたしました。でもそのあとで、事の重大さに気がついてあっちこっちうろうろ歩き回って、最寄り駅の喫茶店でコーヒー飲んであたま冷やしたりしてたんですよ。大体あとになって、感動したり後悔したり取り乱したりするタイプです」

横浜市開港記念会館

*註:今回はHALCON2012での公開選考。終わったその場で受賞者へ電話し、携帯にマイクを当てて会場に声を流した。写真は会場となった横浜市開港記念会館。国指定重要文化財


――今後の野望をおきかせください。
理山「とにかく読書量、文章技術とも圧倒的に足りないことは思い知ったので、それをなんとか鍛錬しながら中短編を発表していきたい。高校時代から密かに暖めている長編まで出せたらよいな、と考えています」
――これから創元SF短編賞をめざすかたがたにメッセージを。
理山「 『焦らないこと』オリジナリティって、自分以外には絶対に書けないということですから。ほかの仕事をして、たくさん経験を積んで、身の回りに余裕ができてから書いてもいい。(今回の授賞式で日下三蔵賞の舟里映さんのお話を聞いて、それがよくわかりました。)村上龍さんの『13歳のハローワーク』に「作家にはいつでも、どんな職業からでもなれる」といった記述があり、それにも勇気づけられました。余談ですがこの本、十代の若者が主役の小説書くなら必携ですよ。
ただ、健康上の理由でどうしても焦りがでる、というのはありますね。あとは、身の回りに理解者を持つこと、ですね」
――さて。ここからは踏み絵みたいな質問です。SFを愛していますか。
理山「はい」
――SFとの出会いはいつ、どの作品ですか。
理山「小学校低学年のとき。シェクリー『不死販売株式会社』
――それわたしもよみましたよー。たぶん小学生になるかならないかのころ。そうかわたしのSF初体験は『惑星間の狩人』ではなくこっちだったのかも。
理山「あのシリーズ(*)は全巻制覇しました。『惑星間の狩人』も大好きでしたね」

(*註:あかね書房 《少年少女世界SF文学全集》 のこと。なお『惑星間の狩人』はこのシリーズでは『惑星ハンター』というタイトルだった。
担当氏いわく「ぼくや理山さんの世代はね、みんな読んでるの。そう必読書」だそうです。すみません松崎ぜんぶ読んでません)

――では、いちばんすきなSF小説は。
理山「小松左京『果しなき流れの果に』

それではつづいて、第3回創元SF短編賞優秀賞賞受賞者・オキシタケヒコさん編を。

優秀賞受賞者・オキシタケヒコさん

第3回創元SF短編賞優秀賞受賞者

第3回創元SF短編賞優秀賞受賞者、オキシタケヒコさん近影。「ウェブにのっけるので写真を」といわれてこれを送ってきたそのセンスに脱帽


――まずはご自身のことを。徳島県出身だそうですが、そういえばことしの“徳島すだち投げ祭り”(*)の映像はすばらしかったですね。もうすだちの香りが画面をとおしてしみこんでくるかのような迫力で。
そうだ地域限定“徳島鳴門わかめダブルミックスソフト”もたべてみたい。あれってやっぱり徳島県民のソウルフードなんでしょうか。
オキシ「そうそう毎日食うてましてな……ってちゃうわ! いきなりボケでくるかー。
ないないない。ないですないですそんな奇祭も珍菓も。
いや待て、ワカメ味のソフトクリームは存在するのか。否定するのも難しい微妙なネタでくるなぁ」
――お手本みたいなノリツッコミありがとうございます。

*註:以下は松崎によるうそレポート。
「ことしも“徳島すだち投げ祭り”にいってまいりました。
四百年余の歴史をほこるあの有名な奇祭です。
時間がなかったので最終日の三日めだけの参戦となりましたが、祭りのために完全封鎖された“徳島のシテ島”ことひょうたん島自宅の庭でとれた箱いっぱいのすだちを投げあう徳島市民たちで埋めつくされておりました。
中継のカメラが何台もはいってましたけど、みなさんレンズについたすだち汁をぬぐうのがとてもたいへんそうでした。」

オキシ「えーと、まずは説明と釘刺しが必要ですね。
前作「What We Want」の発表以来、松崎さんとはHALCON等のイベント(*)ですでに何度かお会いしているのですが、その中で「よし、この人はボケても許してくれるはずだ」と認識されたのか、容赦なくボケ倒してくるのです。受けてツッコミを返すのは使命なのですが(&楽しいのですが)、さすがにインタビューでは自重いたしたいところです。いいですか松崎さん(ジロリ)」
『原色の想像力』

*註:イベント写真の例。HALCON2012「『原色の想像力』の部屋」スピーカー集合。左より選考委員の日下三蔵さん、担当氏こと東京創元社編集部の小浜徹也さん、第一回佳作受賞の高山羽根子さん、第一回山田正紀賞の宮内悠介さん、『原色の想像力』掲載の端江田仗さん、そしてオキシさん


――そんな自重だなんてゆるしませんよ。作家は今後みずからをキャラ立てしていかないと売れないんですから。
それにせっかくみつけたツッコミキャラなんだからつかいたおさねば。担当氏はツッコミなんだと思ってたのに、じつは天然ボケキャラだと判明しちゃったところだし。
ああそれと。必要におうじてエイリアス(*)の沖下圭子さんを召還してくださいね。ではよろしくどうぞ。

*註:エイリアス=作家の影武者、身代わり。エイリアス設定のルーツは村上春樹先生の「はるきちくん」。なお松崎のエイリアスはユーリー小松崎。第二回正賞受賞者・酉島伝法さんのエイリアスは西島伝法、端江田仗さんはジョニーはしえだ、とじりじり増殖中

理山「私もなんか名乗らにゃならんの? 狸山不逞とか?」
――あ。乱入ありがとうございます理山さん。でも“狸山不逞”はいまいちなので、『原色の想像力3』がでるときまでにおしゃれなやつ考えておいてくださいね。宿題ですよ。
オキシ「なんか自分の番が終わったとたんに豹変するなぁ理山さん(笑)
えーとなんでしたっけ。ああそうそう、生まれは徳島で、今は大阪在住です。もう人生の半分以上を大阪の北の方で暮らしています。ゲームの企画や脚本が本業なのですが、現在そっち方面は仕事がなく開店休業状態なので、他に色々ちまちまやって食っています」
理山「オキシさんの作品を読んだとき『あ、この人は私と同じ、大阪の北に住んでる人だな』と直感したのです(ドヤ顔)」
オキシ「いやいや直感も何も、そのまま作中に『北の方』て書きましたがな(笑)」
――たぶん理山さん1ページめでわかったのですよ。
では。小説を書こうと思ったきっかけは。
オキシ「私、『これはSFじゃない』とか言っちゃうタイプのSFファンなのですが、ある時、自分の完全オリジナル企画&脚本でプロジェクトを進める機会を得て、よし、では自分の好きなSFのゲームを気合い入れて作ってみようか、となったんですね。
ところが、進めていくうちにどんどん不安が膨らんでくる。自分がかつて連発していた言葉がブーメランで返ってくるわけです。『これは本当にSFなのか』と問うごとに自信を削られ、追い詰められながら作りました。商業的にも惨敗で、それまでにかなり体を壊していたこともあって会社を辞め、その後半年ぐらいは貯金を食いつぶしながら鬱々悶々としてたと思います。
そんな中、その作品を好いてくださる方々がブログや掲示板に書き込まれた感想やレビューを目にして、励まされ、もう一度創作でSFに挑戦してみようと決めました。そして自分一人でできそうなことを検討すると、小説が残りました。同じそのゲームを小川一水先生がブログで褒めてくださったことが最後のひと押しになりました。できるはずだ、と自分に言い聞かせつつ、今に至ります。しかしその、同じブーメランアタックが今回もしっかり眉間に直撃してるので、あまり成長してないなぁとも思います」
――尊敬する作家は。
オキシ「多すぎて挙げられません。自分には絶対にできないものを作り出せる方々は、おしなべて尊敬に値すると思っています」
――座右の書は。
オキシ「諸星大二郎『無面目・太公望伝』
――小説をかくときに気をつけていることってなんですか。
オキシ「読み進めるための駆動力をどう読み手に与えるか、ですね。波に乗せるというか何というか」
――あなたにとって小説を書くってなんでしょう。
オキシ「誰かの頭の中と間接的に繋がる手段、でしょうか。これは小説に限らず、どんな創作でも同じだと思っています」
――筆暦は。
オキシ「小説だけに限るなら3年。ゲームシナリオも含めるのなら13~4年ぐらいです」
――投稿暦は。
オキシ「創元SF短編賞に3回だけなので、同じく3年です」
――今回、創元SF短編賞に応募されましたが、長編と短編ではどちらがとくいですか。
オキシ「正直、まだわかりません。長編向きじゃないかと言われたりもしますし書いてもみたいのですが、短編であんなに大変なのにいわんや長編をや、という思いもあります」
――この賞をえらんだ理由は。
オキシ「書こうと思い立って色々練習してたその時期に、ちょうど第1回の告知を目にしまして。では行くか、と」
――この賞を知った媒体は。
オキシ「たしか『超弦領域』の巻末告知だったと思います」
――応募に際しどのような準備をしましたか。具体的になにをしましたか。
オキシ「まずは『食って寝る以外は全部書くことに使う』という日を最低2週間は確保するためにスケジュール調整。その後、習作をざっと書いてみて各要素をチェックしてから、メインとなるシチュエーションに至るまでの過程を逆算して図面を引き直す、ということを何回か繰り返しました。大変でした」
――受賞作を書きあげるにはどのくらいかかりましたか。
オキシ「設計から清書まで含めて3週間ぐらいです。しかしアイデア自体は3年ほど前から暖めていたものなので、それも含めるとえらく長期間になります」
――受賞の連絡がきたときなにをしていましたか。
オキシ「そのときはですね……って松崎さん選考会場にいたから知ってるでしょ! 私もいましたってば!」
――すみません。“オキシさーんHALCON会場でいっしょに選考会みよーぜー”とお誘いしたのはそもそも松崎でございます。おなじように端江田仗さんも誘ってしまいました。おふたりには悪いことをした、とちょっとだけ反省してます。だけどね、ふたりともぜったいいい線までいくだろうと確信してたからこそ声かけたのですよ。
さて。
会場で受賞がきまって、最初にいった言葉は。
オキシ「精神的な疲れが大きくてまったく覚えてません。応募者が選考過程を生で聞くっていうのは、かなり心臓に悪いですね(汗)」
――あははーごめんなさい。ちょっとだけ反省してますよちょっとだけ。でも結果よければすべてよしで、よかったじゃないですか。
では、今後の野望をおきかせください。
オキシ「まずは筆力をもっと鍛えることが前提ですが、とあるジュブナイル長編をいつか書きたいと思ってます」
――これから創元SF短編賞をめざすかたがたにメッセージを。
オキシ「まず、読んでもらうことが一番大切です。書いたら誰かをとっつかまえて読ませましょう。叩かれたらむしろ感謝しましょう
理山「で、オキシさんは誰に読んでもらったかすごく気になるんですが。俺は家内に読んでもらえなかったんだよ! だから担当さんに(以下略)」
オキシ「あー、えーと、妻です(汗)。せっかく身近にいるんだから、読んでもらえるように奥さんにはSF者になってもらわなきゃだめですよ理山さん」
――そうそう。つれあいにはさいしょの読者となってもらえるよう、つねひごろから根回ししとく、というのは創作者の基本でございます。
いずれにせよ、耳に痛いことをいってくれるひとは貴重です。だいじにしましょう。
さて。ここからは踏み絵みたいな質問です。
SFを愛していますか。
オキシ「はい」
――SFとの出会いはいつ、どの作品ですか。
オキシ「中学一年ぐらいかなぁ。記憶が定かではないのですが、たぶんアシモフ『宇宙の小石』か、セイバーヘーゲン『バーサーカー 赤方偏移の仮面』あたりかと」
――いちばんすきなSF小説は。
オキシ「ひとつだけ選ぶって実に難しいんですけど……飛浩隆「“呪界”のほとり」は理想型のひとつとして常に頭の中にあります。今回、飛先生がゲスト審査員だと知って大喜びしたんですよほんと」
――第四回のゲスト審査委員は芥川賞作家の円城塔さんですからね。「道化師の蝶」が理想型だ、と思われるそこのあなた。あるいはたんに円城ファンのあなた。どうかふるってご応募を。ねえほしいでしょ円城塔賞。
ではオキシさん、そして理山さん、おつかれさまでした。
理山「よく考えたら、3つともぜんぜん踏み絵じゃなかったなあ」
オキシ「ですよねぇ」
――えっそうですか。“SFを愛していますか”なんて質問、もろに踏み絵だと思ったんですが。
ああそうか。こうきかれて“だいきらいです”って答えるひともいないかな。失礼しました。

おまけ

「ウェブにのっけるので写真を」という松崎のおねがいにたいし、おふたりとも複数枚画像をおくってくれたので、インタビュー冒頭にあげたもの以外も公開:
第3回創元SF短編賞受賞者
まずは理山さん。
家族まんがで自分を表すときに使っているキャラクタです。
名前は猫父(ねこちち)
なんですか家族まんがって。そっちのほうが気になってたまらない。

第3回創元SF短編賞受賞者
つづいてオキシさん。
「なんかSFではなく暗い純文学書きそうです」
そう卓上の缶チューハイとかね。小道具きいてます。

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松崎有理のデビュー作です。

『あがり』文庫版表紙と瀬名秀明さんによる帯
『あがり』

出版社 東京創元社
発売日 2013/10/31
文庫
定価 903円(税込)
解説 三村美衣

●デビュー作『あがり』が文庫になりました。
文庫版ボーナストラックとして短編「幸福の神を追う」(集英社『小説すばる』2012年7月号掲載「おらほさきてけさいん」改題)を収録しました。また、文庫化するにあたり各話とも手をいれました。
なお、オーディオ版もあります。朗読は兼高美雪さんです。
もくじと作品概要
1、「あがり」第1回創元SF短編賞受賞作。師の死を悼む男子学生の実験がとんでもない結末を引き起こします
2、「ぼくの手のなかでしずかに」小太り薄毛で研究もぱっとしないポスドク数学者が、とある自己実験をはじめたせいでどんどん変貌していきます
3、「代書屋ミクラの幸運」論文執筆代行業、ひとよんで「代書屋」。ここからシリーズ短編集と長編が派生しました
4、「不可能もなく裏切りもなく」中編。著者の持つバイオ知識をあらんかぎり注ぎこんだ本格ハードSFです。ここで描かれたすべての実験がじっさいに再現可能です
5、「幸福の神を追う」いわゆる異類婚姻譚。異類といってもすっごくかわいらしい、あれですよ
6、「へむ」医学部の地下にはりめぐらされた通路。そこには子どもにしかみえない妖怪たちがひっそり暮らしていました。少年と少女はかれらとなかよくなりましたが、ある日とつぜん地下道の閉鎖が決定します

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税込定価105円。特別付録として「選考経過ならびに選評」を収録しています。

松崎有理のほかの著作については、作品一覧ページをごらんください。

     

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