デザイン論講義の宿題をさらしてみる その2



さて、宿題をさらすシリーズの二回め。

設問:

「デザイナへのインタビュー集DVD『デザインの理念と実践』をみて、
ひとりのデザイナをえらび、800字以内で論述しなさい」

今回、けっこうまじめです。これでは笑いがとれないので、注ですこしあそびました。



インタビュー集『デザインの理念と実践』をみて  松崎有理

 学生時代、居酒屋でホール係をやっていた。

 営業時間帯が比較的早いことと食事中心の品書きのせいか、一次会利用の多い店だった。みなほろ酔いで、おいしい料理をたくさん食べて上機嫌、という雰囲気のところだ。客商売がはじめてだったわたしはメニューを暗記し、材料の仕入れ先を調べ、ワインのコルクのすばやい開け方や効率のよいビールジョッキの持ち方を練習してアルバイトにのぞんでいた。

 やがて、お客さんたちからつけられた愛称が「いいひと」だった。そう呼ばれていたことを思い出すといまでもあたたかい気持ちになる。お客さんの笑顔、そして、たまわったこの愛称こそが、わたしの提供したサービスにたいする金銭には換えがたい報酬だった。このアルバイトが、その後の仕事にたいするわたしの姿勢をつくったのかもしれない。つまり、基本はつねにサービス業、だ。

 だから、喜多俊之さんの言葉には胸をつかれた。「自分のためではない。かぎりなくひとのため」。プロダクトデザイナである喜多さんは、自分のつくったものが「だれがつかうか、どこへいくのか」をいつも考えている、という。

 こんな大先輩と同列に語ってしまうのはあまりにおこがましいけれど、喜多さんにとっても、基本はつねにサービス業、なのだろう。

 もちろん、ものをつくるうえで自分がいい、と思う基準をもつことは必須だ。しかし、それが他人にも通用するのかどうかは冷静に検討しなければならない。自分が提供したものを、見知らぬ相手はどう受け止めてくれるのか。仮想演習はかかせない。

 居酒屋のホールとはちがって、客の顔を直接みることはできない。だが、相手が笑ってくれる *) ことを期待して、わたしはものをつくる。これからは喜多さんのように、できあがったものを送り出す前に「ひとしれず、ふっと息をふきかけて」**) みるようにしよう。

(759字)

*) 笑う、なんてなまやさしいものでなく、大爆笑してくれることをつねに狙っている。
**) 冷静にかんがえてみると、松崎がつくっているのはデジタルデータだった。やりたくてもやれない