藤森照信の茶室を巡るツアーに参加しました

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高過庵

作成日:2019/10/11 最終更新日:2019/10/12 かいたひと:松崎有理

【もくじ】
ツアーの概要
スタートは諏訪大社上社前宮から
神長官守矢資料館(1991)
空飛ぶ泥舟(2010)
高過庵(2004)
低過庵(2017)
参加してみて気づいたこといろいろ

藤森照信さんといえば、唯一無二の印象的な建築を設計するかたとして前々から気になっておりました。
このたび、氏の生まれ故郷である長野県茅野市でフジモリ茶室ツアーなるものが催されると知って、さっそく行ってきましたよ。

ツアーの概要

ツアーの正式名称は『フジモリ茶室』プレミアムガイド
高過庵の定員が四名という都合上、参加者三名以下の完全プライベートツアーとなっています。
なお三名のばあい参加費はひとりあたり7500円、二名のばあいはひとりあたり10000円。
はっきり申しあげて、この内容でこの値段は安すぎだと思いました。その理由は、以下を読めばおわかりになるでしょう。

スタートは諏訪大社上社前宮から

なぜここがスタート地点なのかというと、この近所で生まれ育った藤森先生の思想の原点だからなのだそうです。
なお前宮(まえみや)とは「以前の宮」の意味で、本宮ができる前からあったものとのこと。だから神社といってもプリミティブなおもかげをよく残しているんだそう。
くわしくは公式サイトで、諏訪大社の本宮と前宮の位置関係の説明をごらんください。
前宮のプリミティブさのあらわれとして、明確な境界がないことがあげられます。敷地のとちゅうで集落がはじまっちゃったりとかふつうです。
また、ガイドさんおすすめのここ。なんとこれが手水舎(ちょうずや)ですよ。

諏訪大社前宮の手水舎

これぞプリミティブ。かがんで手を洗うのはちょっとたいへん。でも、きれいでおいしい水でした。


そしてこれが諏訪大社のシンボル、御柱(おんばしら)。
諏訪大社の御柱

こういう柱が四本、立っています。


御柱祭とは巨木を四本、山から人力のみで切り出してきて敷地の四隅に立てるというこれまたプリミティブなお祭り。それもそのはず、長野県指定無形民俗文化財でもあります。なお七年にいちどしか行われません。
諏訪大社の御柱

山からずっとひきずってくるので、裏側はこんなふうに削れています。


というわけで、諏訪のひとたちはなんでも四本の柱でかこんでしまう習性があるらしく、そこここでこんなものをみることができます。
諏訪大社前宮

なんでも四本でかこんじゃえ。

神長官守矢資料館(1991)

さて予習を終えて、ついにフジモリ建築見学の開始。さいしょはもちろん藤森先生の処女作からです。
そもそも、なぜ当時は「建築史家」であった藤森先生がこの建物の設計をすることになったかというと。
守矢家とは、中世より諏訪大社の神官職・神長官(じんちょうかん)をずうっっっと務めてきたご一族。そのためたくさんの古文書を持っていて、それを収める建物が必要でした。
いまの守矢家の当主さんは藤森先生と幼なじみだったので、ふさわしい建築家を紹介してくれないかと頼みました。
話をきいて藤森先生は、
「そんなだいじな建物は、諏訪大社と茅野をよく知る人間でないと設計できない。そして、そんな人間は自分しかいない」(大意)
と考えたのです。
こうして、建築史家フジモリは建築家フジモリとなったのでした。
なお資料館でもらえる公式パンフには、藤森先生みずからによる建築解説が載っていましてこれがまた傑作なんですよ。
たとえば正面の四本の柱は、ラフを描いていたとき「ぐうぜん鉛筆がすべって軒をつきぬけてしまった」(大意)ために生まれたのだそう。
もちろんこの柱は上で説明した諏訪大社の御柱をあらわしています。その証拠はこの鳥みたいなかたちの金属片。薙鎌(なぎかま)といいまして、御柱となる予定の立木に目印としてうちつけておく祭器なのだそうです。

神長官守矢史料館

矢印のところ、わかるかなあ。


というわけで薙鎌部分を拡大してみました。どうですこのグッドデザインぶり。鳥ずきの心くすぐるキュートな神具です。


なおこのパンフ、建物の平面図も載っていてかなりうれしい。建設費総額は1億3678万円だとか豆知識も手に入ります。
さあ、いざ建物のなかへ。内部ももちろん圧巻。
神長官守矢史料館

二階の収蔵庫からからくりみたいに延びてくる階段とか、


神長官守矢史料館

垂直じゃなくてななめになってる壁とか、


神長官守矢史料館

いまとなっては再現できない職人さんの手吹きガラスとか。


そしてこれが噂の、御頭祭(おんとうさい)復元展示。
神長官守矢史料館・御頭祭

解説によれば、75頭の鹿と、魚、鳥、獣の肉を山のように盛って直会(なおらい)をするんだとか。
展示の様子は、菅江真澄による江戸中期のスケッチを元にしているそうです。


なお諏訪大社は鹿食免(かじきめん)という肉食を許す免状を出しています。
資料館には「鹿食免スタンプ」もあって、免状量産きぶんで遊べますよ。
とにかく入館料100円とは信じられない、建築と民俗学がすきだったらぜったい何時間でも滞在できるおすすめスポットです。

空飛ぶ泥舟(2010)

諏訪大社と資料館でフジモリ精神についてじゅうぶん学んだあとで。
やってまいりました茶室その1。

空飛ぶ泥舟

手前の敷地はよその方のものですが、空気を読んでお花を植えてくださってるんだそうです。「空飛ぶ泥舟」のかもしだす世界観にとてもよく合っています。


このツアーのいいところは、すべての茶室に入れるところ。
さてこの泥舟、ワイヤで吊ってあるしどうやって入るのかな、と思ったら。
空飛ぶ泥舟

このように梯子をかけます。なお梯子の前で靴をぬぎます。なんとこの梯子も藤森先生のお手製で、丸くけずってあってにぎりやすく、素足にもやさしいつくりです。でもやっぱり高いし、揺れるのでおっかないことは確か。


空飛ぶ泥舟

せまいので全体を撮るのはむりなんですが、舟みたいなかたちになっているのはおわかりいただけるでしょうか。明かりとりの窓はちいさくともじゅうぶんに陽光をとりこんでくれます。


空飛ぶ泥舟

茶室だけどテーブルを囲んで座る形式。定員七名で、三茶室のうちでいちばんひとがいっぱい入れるところ。


空飛ぶ泥舟

キュートな炉。煙突はとうぜん屋根を貫通して外へ出ています。


構造は、この茶室をじっさいにつくった市民ワークショップのようすをみたほうがわかりやすいと思います。

高過庵(2004)

つづいて、すぐそばに見える高過庵へ移動。

高過庵

このアプローチにどきどきします。


記念すべきフジモリ茶室シリーズの第一作です。
きっかけは、細川護熙首相(当時)からの茶室設計依頼。なんとフランス大統領接待用。そのあとご自分でも茶室がほしくなってしまった、とのこと。
なお高過庵は、TIME誌の「世界のもっとも危険な建物トップテン」に入っているという話がまことに有名ですが、だれもソースにリンクをつけていないので以下に貼っておきますね。
Top 10 Precarious Buildings
(メテオラは個人的にずっと前からいってみたいと思っていました)
高過庵

こちらも梯子であがります。高さが6メートルもありますが、この梯子は紐で固定できるので、「空飛ぶ泥舟」ほどは揺れずこわくありません。とちゅうに「玄関」があってそこで靴を脱ぎます。


高過庵

いっけんツリーハウスのようですが、高過庵をささえている木はじつはほんものではなく、コンクリに樹皮をはったもの。ほら釘がみえるでしょ。ツリーハウス正統派のひとからいわせるとこういうのは邪道なんだそうで。


高過庵

窓を全開にすると、とんでもない開放感。この日は快晴で、山並みがきれいにみえました。


高過庵

入口はこのとおり。空飛ぶ泥舟もそうですが鍵なんてありません。だって梯子がなくちゃ入れませんから。


高過庵

金箔を貼った明かりとり。
「思いつきで貼ってみたんだけど、思いのほか大量の金箔が必要でお金かかっちゃったよ。ははは」(大意)との藤森先生のコメントだったとか。


高過庵

炉はこのとおり、かなりひかえめなつくり。藤森先生ご自身もここでいちから湯をわかすことはあきらめていてポットを持ちこむそうです。上部に煙出しの穴がみえるでしょうか。


高過庵

窓からはすぐ下の低過庵がみえます。

低過庵(2017)

さて地表へ降りて、いよいよ竪穴式茶室・低過庵へ入ります。
この茶室はみっつのうち最新です。アイデアだけは高過庵と同時に生まれていたのですが、なんだかんだで遅れてしまったのだそう。なおこれも、空飛ぶ泥舟と同様に市民ワークショップで作られたもの。

低過庵の入り方

これが低過庵の入口。ここから階段で数段ぶん地下へおりたところが床です。さすが竪穴式。


入ってみると、内部はまっくら。
なかではお茶の先生も待っていてくれます。
しばし暗闇を堪能したあと(なにせ都会では暗闇は貴重なのです)、人力で紐をひっぱることで天井がスライドオープンします。この日はよく晴れていましたからその明るさのギャップたるや。
低過庵

低過庵の屋根は、このように横へスライドして開閉。なおこの写真は閉めるところで、開けるときは外からひっぱります。


低過庵

こんなふうに紐がついていて、こいつを引っぱるだけ。ローテクです。


低過庵

みあげると、そこには高過庵が。さすがは対で構想されただけのことはあります。


ふつうの住居で天井がかんぜんに開くものなんてそうそうありませんから、「天井ひらくんだよねー」と予備知識があっても驚きます。予備知識なしだと心そこ度肝を抜かれます。だからツアーの同行者がフジモリ建築にあまりくわしくないばあい、このしかけはないしょにしておくと楽しいですよお互いに。
文字どおりの青天井のもと、おもむろにお茶会が催されました(ひょっとしたらこれは野点なんでしょうか)。藤森先生から建物をお借りしている都合上火をつかえないので、ポットのお湯です。お茶をたててくれる先生は本領発揮できないので少々不満そうではありました。
低過庵

低過庵内部での茶会。


抹茶を飲んで、お菓子を食べて、よく晴れた秋の空をあおぎます。都会にはない空気のおいしさ。すごくぜいたくな気分になりました。茅野まできてほんとうによかったと思いました。
高過庵おまけ

おまけ。高過庵のちかくにあった、これもフジモリ作の神聖ななにか。やっぱり柱が立っています。

参加してみて気づいたこといろいろ

  • 公共交通機関の便がひじょうに悪い。茅野駅から集合場所、解散場所から茅野駅まではタクシーで1200〜1300円ほど。とくに帰りでタクシーを呼ぶのに苦労したので、ツアーにタクシー迎車サービスまでついているとかんぺきだと思った
  • 高過庵はかなり高く、窓も大きいので、晩秋や早春はきっと寒いだろうなと予想。しっかり着こんでいきましょう
  • 3時間かかるツアーでトレッキングもあるというので、体のよわい松崎は戦々恐々としていたのだけどそれほど険しい山道ではありませんでした。ただし歩きやすい靴必須
  • トイレポイントは神長官守矢資料館だけです

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建築ずきなかたはこちらの記事も楽しめるでしょう。
カジノへ行かないマカオ~ポルトガルのおもかげを求める旅

民俗学・人類学に興味がおありですか。
以下で架空レポートシリーズを展開しています。
節分と柊鰯【文化人類学・架空レポート】
日本における ”冬のチョコレート祭り” の起源をさぐる【文化人類学・架空レポート】
春の蕎麦まつり【文化人類学・架空レポート】

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嘘の論文、いっぱい書いてみました。


『架空論文投稿計画 あらゆる意味ででっちあげられた数章』
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「島弧西部古都市において特異的にみられる奇習“繰り返し『ぶぶ漬けいかがどす』ゲーム”は戦略的行動か?」
「経済学者は猫よりも合理的なのか?」
「図書館所蔵の推理小説に“犯人こいつ”と書きこむひとはどんなひとか」
「おやじギャグの社会行動学的意義・その数理解析」
「比較生物学から導かれる無毛と長寿との関係――はげは長生き?」
などなど。タイトルからしておかしいのに、投稿された論文にだれもダメだししてくれません。そんな実験を続けるうち、研究者に妨害の魔の手が。謎の組織・論文警察やその黒幕の正体は。そして主人公に接近する黒衣の超美人ハーフ研究者は敵か味方か。「代書屋」シリーズでおなじみ、敏腕代筆業者のトキトーさんも登場します。
学術業界(架空)裏話にひたっていただくため、専門用語にはていねいに註をつけました。巻末にはショートショートのおまけつき。コスパには自信があります。するめを噛むように味わっていただけたら幸いです。
●もくじ、帯ほかくわしい情報は当サイト内架空論文特設ページよりごらんになれます。

松崎有理のほかの著作については、作品一覧ページをごらんください。

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