フィクション(作品試し読みなど)

サイトのみで発表する新作はこのカテゴリです。
新刊発売記念企画や作品の試し読みもこちらです。
「試し読みのもくじがほしいなあ」とお思いのかたは、お手数ですが「作品一覧」ページへ飛んでくださいませ。
サイト外掲載情報:
『5まで数える』収録短編「やつはアル・クシガイだ――疑似科学バスターズ」は筑摩書房公式サイトにて全文試し読みができます。
『小説すばる』(集英社)2017年6月号掲載の短編「惑星Xの憂鬱」が集英社公式サイトにて冒頭試し読みできます。

「超現実な彼女」冒頭部分試し読み(『代書屋ミクラ』収録)

作成日:2017/09/03 最終更新日:2017/09/15 かいたひと:松崎有理

お花アイコン

「名前を教えてください」
 刻文丁通の花屋を三度めにおとずれた夜、店員の彼女に思いきってそうきいてみた。
 彼女はぼくが買った一本きりの赤いばらを包む手をとめて、目をあげた。白い丸顔が微笑する。小さな唇が動く。
「レニエです」
 それはこの店の名前だ。

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『架空論文』特設ページ

作成日:2017/07/25 最終更新日:2017/12/01 かいたひと:松崎有理

『鼻行類』か、それともソーカル事件か。
松崎有理が月刊電子文芸雑誌『アレ!』で2011~2012年に連載していた「架空論文」シリーズが、『架空論文投稿計画 あらゆる意味ででっちあげられた数章』(光文社)としてついに書籍化されます。
(発売日は2017/10/20)
このページでは、刊行に先立ってその内容を随時公開していきます。

【もくじ】
「架空論文」サンプル公開いたします。(PDFあり)(2017/07/25更新)
第一章をまるまる試し読み(2017/09/29更新)
新刊プレゼント企画はじめました。(2017/10/05更新)
書誌情報・カバー・帯・もくじ公開します。(2017/10/07更新)
どんな本なのかてっとりばやく知りたいかたへ(2017/10/12更新)
現役研究者からご感想をいただきました(2017/11/21更新)
電子版発売しました・実機レビュー(2017/11/27更新)
書評のご紹介(2017/11/27更新)

「架空論文」サンプル公開いたします。

こんな架空論文がほかに10本も入っています。でも、論文集ではなくて小説なんです。ラストにはおまけショートショートもついてますよ。

島弧西部古都市において特異的にみられる奇習“繰り返し「ぶぶ漬けいかがどす」ゲーム”は戦略的行動か? ——解析およびその意義の検証

ユーリー小松崎(比較民族文化研究所)、松崎有理(情報数理生命科学研究所)
(Received 7 Sep 2011, Final acceptance 12 Sep 2011)

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『代書屋ミクラ すごろく巡礼』冒頭部分試し読み

作成日:2017/09/03 最終更新日:2017/09/06 かいたひと:松崎有理

「これは結婚できない呪いの秘薬」
 その男は緑色の瓶の中身をぼくの頬に塗り終え、満足げな笑みをうかべた。三十歳くらいのさも賢そうな男前で、ふだんはめったに笑わない。
「おまえはもう一生結婚することができない」
 ぼくの目をのぞきこむ。また笑う。美形なだけにいっそう怖い。
 負けるもんか。負けないぞ。なにが呪いだ、呪いの正体とは思いこみだ。信じさえしなければなんの効力もない。
 大声でそう叫んでやりたかった。だが口は開かない。そもそも全身にわたって、まったく、指先さえも動かすことができなかった。
 あああああああああ。かわりに心のなかでせいいっぱい叫んだ。あああああああああ。動け、このからだ。声を出すんだ。声を。あああああああああ。
「あああああああああ」
 勢いよく布団を払いのけて起きあがった。短距離を全力疾走した直後のように肩が上下していた。心臓が跳ねている。寝間着がいやな汗で濡れている。
 あの夢か。ひさしぶりだな。
 見慣れた古い貸間の古い柱と古い掛け時計をぼんやりながめながら、夢の内容を反芻した。ふだんは忘れ去っているけれど、春がくるころかならず夢のかたちで記憶がよみがえる。三年前のこの季節、代書屋としての初仕事。依頼人は意地悪な研究者。ぼくはまだ依頼人との適切な距離のとりかたを知らず、反発したあげく彼の研究主題でもあった呪いをかけられるはめになった。しかも。
 結婚できない呪いだ。

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『5まで数える』特設サイト連動企画〜ボツネタ救済します

作成日:2017/06/08 最終更新日:2017/12/04 かいたひと:松崎有理

#このページは筑摩書房『5まで数える』特設サイトと連動しています。

世に出た結果の影には、その何倍ものボツ作品がある。
もちろん、埋もれさせるには少々もったいないものも存在する。
というわけで、ボツネタ救済企画。
今回のテーマは「初の特設サイトでいっぱいボツになった」です。

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『5まで数える』表題作冒頭部分試し読み

作成日:2017/09/02 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  ものをこわがらな過ぎたり、こわがり過ぎたりするのはやさしいが、正当にこわがることはなかなかむつかしいことだと思われた。 寺田寅彦「小爆発二件」

***

 少年が敵の姿をはっきり認識したのは五年生になったさいしょの日であった。
 九月。まだまだ秋とは名ばかりの、強い日差しと亜熱帯的なスコールに悩まされる時期である。少年のクラスの担任となったのは新顔で、若く、きびきびした動きの小柄な女性だった。彼女は教壇に立ち、児童たちの前でファンと名乗った。きれいな発音の英語だった。四年のとき担任だったイギリス人男性教師よりもきれいなくらいだ。
「先生、かわいいっ」
「どのへんに住んでるんですか。旧市街、それとも新地区」
「スリーサイズは。好きなタイプは」
 ませた男子たちがつぎつぎにませた質問を発する。女子たちは彼らを軽蔑の目でながめながらも、やはり若い新任教師にたいし興味津々だ。クラスの六割が中国系で三割がヨーロッパ系、残り一割がその他の民族集団で、少年はみっつめのカテゴリに属している。この街の公用語は歴史的経緯から南欧語だが事実上の共通語は中国語であり、観光都市という性格から学校での授業はすべて英語で行われていた。

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「砂漠」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/02 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  人間のやることは凶暴すぎる。  宮崎駿「空のいけにえ」(サン=テグジュペリ『人間の土地』、新潮文庫より)

***

 どこにも怪我はないようだった。
 不幸中のさいわい、と定型句をつぶやいて、少年は空をみあげた。嫌味なくらい徹底的に晴れわたっていて、雲の存在など忘れてしまったかのようである。太陽はほぼ空の頂点に達しており、残酷なほど強烈に地表をあぶりつづけている。火にかけた鍋の底にいるみたいだった。いまは十二月、この大陸は真夏だ。
 はたしてこれは幸運なのか不運なのか。

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「バスターズ・ライジング」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/01 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

 一二五ダラーといえば、舞台鑑賞の料金としてはかなりの高額である。それでも超能力者ロクスタ師の秋公演チケットはまたも即日完売となった。
 ロクスタ師の宣伝方法はつねにシンプルかつ効果的だ。今回のコピーは「あなたは奇跡を目撃する」。基本、事前情報はこれだけ。それでもひとは争ってチケットを求めるのである。二週間の公演を通して座席を押さえる熱心なファン、ないし信者も多かった。
 会場は劇場街最大規模を誇るニューシティシアター。入口には物販があって、ここへも客の金がつぎこまれる。ロクスタ師の著書、師監修の超能力自己開発キットや悪い波動を防ぐという護符類。ネットワークの公式サイトから通信販売するばあいの数倍の価格なのに、山積みであった商品はすでに売り切れ寸前だ。公演時に入手すればより強い奇跡の力に触れられると信じられているためである。
 前宣伝どおり、この夜かれらは奇跡を目撃した。公演初日の開演を告げるブザーとともにざわめきが止んで、客席側の照明が落ち、無人のステージに二千対の視線が集中する。ステージは通常の仕様で、舞台奥には大黒幕、袖には三重の黒い袖幕がついていた。数十秒も無音の時間が流れたあと、ふいに音楽。舞台両袖からスモーク。するとステージ中央に、トレードマークの白いローブをまとったロクスタ師の姿がとつじょ出現した。

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「たとえわれ命死ぬとも」冒頭部分試し読み(『5まで数える』収録)

作成日:2017/09/01 最終更新日:2017/09/02 かいたひと:松崎有理

  死亡や障害が予見されるようないかなる(人体)実験も行われてはならない。例外があるとすれば、実験する医師自身が被験者となるものであろう。 ニュルンベルク綱領第五条、著者訳

***

 法学部ではなく医学部へ行きたい、とうちあけたときの両親の顔を大良は生涯忘れることはなかった。
 十八歳の夏のことだ。居間の大きな窓は開け放たれ、天井では輸入もののしゃれた扇風機がゆっくり回転して微風をつくりだしていた。両親はまず驚き、ついでやはり、という表情になり、それから泣いた。だが息子を止めはしなかった。止めても無駄とわかっていたからだ。両親としては、生き残った子供には安心安全な道を歩んでほしいと願っていたのだが。たとえば父親のような弁護士になるとか。
 嘆く両親を置き去りにして大良は二階の自室にあがり、受験勉強のつづきにかかった。彼にはもうひとつ忘れられない顔があった。だから彼は医学部をめざす。医師に、より正確には実験医になるためである。

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